「お、はよっす」

「おはよう、切原くん。…あれ?なんでジャージなの?」

「放課後の部活は無くても朝練あんの。俺としては放課後もやりてえんだけど、規則は規則だ!とか言って怒られんだよなー」

「顧問の先生に?誰だっけ、テニス部の顧問って」

「ちげーよ、副部長だよ。ほら、真田さんっているだろ、二年の」

「あっ、風紀委員の人!朝よく見かけるよ」


登校して下駄箱で会ったのはテニス部のユニフォーム姿の切原くんだった。部室で先輩たちと喋っていたら、いつの間にか部室を閉める時間になっていて追い出されたそうだ。教室で着替えるらしい。


「あ、今日も勉強会やるんだろ?俺もしかしたら小ミーティングあるかもしれねえわ」

「そうなの?無理しなくてもいいよ、そっち優先しなよ」

「サンキュー、でもまあすぐ終わるだろうし待っててくれよなー」

「うん、移動することになったら連絡入れるね。それじゃ、またね」

「おー」


切原くんと別れ教室に行き自席につく。菜津はまだ来ていないようだ。切原くんのテスト用に、今日の英単語だけ抜き出しておこうかなあ。あとは一応昨日の文法の文章を抜き出して確認テストみたいのやればいいだろうか。人に教える方が自分の理解力が深まるというのは本当らしい。自分でもよく考えるし、何度も同じものを見ていると単語力もついてくる。ある意味切原くんさまさまである。


「おっは!」

「おはよう、菜津」

「…なんか教室に来たらテストのこと思い出しちゃった、帰りたい今すぐに帰りたい。しかも1時間目数学じゃんもうやだ無理キライ」

「が、頑張れ!わたしも頑張るから!夏休みの課題何回もやれば今回はしのげる!いける!」

「ハイ、ガンバリマス…」


朝からテンションガタ落ちの奈津を見ながら、中間の範囲が狭いってことは期末のテストの範囲すごく広いんじゃ?と気づいたわたしは謎の焦りを感じていたが、チャイムが鳴ってしまったため奈津が自席に戻ったのでそこで思考は止まった。


□ □ □ □ □ □ □ □ □ □


放課後、勉強会の時間になった。切原くんは朝に言ってた通りミーティングが入ったと連絡が来ていた。なので今は菜津と山本くんと三人で勉強中だ。二人とも頑張ってはいるのだが、なんというか、頭の中で整理が追い付いていないようだ。ちなみに今は現代文の読解に取り組んでいる。私は国語が得意な方だし好きなので、苦労して考えるものではないと思っていたから正直教えるのが難しい。徹底させるべきは主語と文末を気を付けることだと説いているが、それよりも内容理解が出来ていないから二人とも固まっている。


「これ、聞いてるのは何?」

「「僕」の気持ち?」

「そう!で、本文の中から「僕」が考えてるものだけを抜き出して、まとめればいいんだよ。ほら、ここなんか「寂しいと思った」って書いてあるから、気持ちでしょ?」

「でも答えは「嬉しい」も入ってるだろ?俺そこがわかんねえ」

「最後の方にあるはずだよ、…ほらここ。「やっぱり僕、この子が生まれてきてよかった!」って書いてあるでしょ。妹ができて寂しかったけど、最終的に嬉しくなってるんだよ。喜んだ、でも正解だと思うけどね。解答はあくまでまとめかたの例だと思うから」

「へー…、じゃあやっぱ自分で考えなきゃいけーねのか…」

「日本語難しいね、山本…」


二人して深い溜め息を吐くのを見て、笑いが半分悔しさが半分だ。どうしても分からなかったら先生のところに行ってね、と告げるとさらに溜め息を吐いた二人。まあ、先生の授業聞いてて分からなかったんだから行きたくなくなるのも分かるけど。でもどうせならテスト作成する先生に直接質問しに行けば、ぽろっとこぼす可能性もあるのだ。行って損はしないよ、と一応念を押しておいた。この様子だとどっちも行かなそうだけど。
行き詰まって皆の手が止まったところで、ガラリとドアが開いた。それと同時に「おっす!」と声が響く。切原くんだ。


「おー、お疲れ」

「何やってたんだ?あ、国語じゃん」

「国語じゃないよ外国語だよ…」

「分かるぞ佐々木…」

「日本語です。切原くんも国語やる?」

「さっさと英語終わらせてから他のやるわ。その方がいいって部活の先輩に言われた」

「あ、柳先輩でしょ」

「そうそう」

「知り合い?」


切原くんが先輩、としか言ってないのにビシッと指をたてて名前を当てた菜津。誰かわからないけど共通の知り合いなのかなと思ったのだが、目を見開いて驚かれた。えっ。


「柳先輩知らないんだっけ!?」

「え、うん。会ったことあるっけ?」

「多分ないと思うけど、ほら、いつも幸村先輩の話してるときにデータの人って言ってる人!あれが柳先輩!」

「あ、じゃあ切原くんのデータからそういう結果が出たって話か」

「何、やっぱテニス部って話題になんの?俺らは?」

「サッカー部も人気だよ、誰だっけ、島田先輩?って人?」

「あー、やっぱキャプテンかっこいいよなー…」


切原くんが教科書とノートを出している間に繰り広げられる部活トーク。サッカー部の先輩については確信が持てなかったので菜津に聞きながら喋れば、うんうんと頷いてくれたので当たっていたようだ。島田先輩はちらっと見たことがあるけどめちゃくちゃかっこよかった。高校生って言われても受け入れられる長身と甘いマスクってやつを持っていた。もちろん菜津イチオシの幸村先輩もかっこいいけど、やっぱり二年生だとちょっと幼いなと思った。


「あ、じゃあ切原くん。これ今日の英語のプリント。終わったら声かけてね」

「うわ、すげえ!テストみたいじゃん!」

「それっぽく作ってみたんだ」


ルーズリーフに先生のテストを見よう見まねでそれっぽく写しただけなのに、切原くんは思いっきり褒めてくれるので気分がよくなる。頑張って作ってよかった!

| ≫