早速、英語をやるために全員がテキストとテスト範囲のノートを開く。あらかじめ先生から配られていたプリントも併せて取り出して、さくさくと進めていく。私としては記憶するだけの作業なので楽なのだが、目の前からはうー、と唸り声が届いた。顔を上げるとプリントを睨みつける切原くん。隣では菜津と山本くんが協力しているので、私が声をかけてもかまわないだろうか。せっかく時間があっても無駄にしては意味がないし、勇気を振り絞って声をかけるぞ…!と意気込んでいたら切原くんから話しかけてくれた。


「なあなあ」

「はいっ!」

「…ここ、教えてくんね?俺ほんと英語わっかんねえんだよ、頼む!」

「いいよ、見せて見せて」


切原くんのノートをのぞき込むと、まず読めなかった。待て。寝てたでしょ、と言えばえへへと笑う切原くん。ミミズが這うノートを見て、私のノートを差し出す。


「うわ、超きれいじゃん!何、家でまとめてんの?」

「いや、授業中起きてれば多分こうなるんじゃないかな…」

「ふうん、…でもあんまわかんねえわ」

「単語は基本的にひとつひとつ覚えるしかないんだけど、文法は一つ覚えればいくらでも応用きくから、まずは文法覚えるのがいいかも」

「どれやればいい?」

「とりあえず、これとこれじゃないかな。英語のテスト作るのC組担当の先生だから、多分こういうの好きそう。あと、並び替えは絶対出すって言ってたから、ここの章末のやつ覚えちゃうといいよ。この主語と動詞と目的語と補語の関係とかもポイントだって言ってた」

「…あのさ、どれが動詞とか分かんねえんだけど。あと目的語とか補語って何?」

「…私、教え方下手だろうから、分からなかったら言ってね。説明しなおすから」

「うっす。お願いしまっす」


まさか、ここまでとは…!とりあえず、文章を日本語から教えることにした。日本語なら分かっているようなので、それを英語に置き換えてやるとおお!と表情を明るくした。あとは単語力の問題になるだろうが、簡単な見分けだけは教えておいた。まあ、今回の英語の範囲を見ると広いものの覚える単語は少ないだろうし、毎日やれば忘れないと思う。それにそんな難しいものもない。日本語と英語を交互に品詞分解させると切原くんも理解がスムーズになった。なんだ、思ってたよりも出来るんじゃん。


「じゃあ、今度からは単語の書き取りをしてから文法やろうか。ごめんね、段取り悪かった」

「いや、俺がこれだけ英語分かんの初めてだから全然いいぜ!でもアレだな、家帰ったら忘れそう…」

「…ゲームとかで呪文覚えたら?結構英語に繋がるやつあるよ」

「…まじで!?」

「しかも、切原くんってテニス部なんでしょ?英国紳士のスポーツじゃん、英語に触れまくりなのに」

「カタカナって日本語じゃん、意識しねえよ」

「それじゃあ次から意識して聞いてみなよ。だってほら、ラケットとボールだって英語なわけだし…」

「…ほんとだ!!」


その後、切原くんとゲーム内の英語について話していたところ、英語よりもゲームの攻略に話がそれて、菜津と山本くんから怒られたのは言うまでもなく。でも、切原くんと同じゲームを持っているらしくて今度通信対戦しようということになった。インターネットの便利さを痛感したところである。
その流れで、一日目の解散時に携帯の番号とアドレスをみんなで交換した。そして何故かその日の夜、山本くんによって四人のLINEグループが作られた。こ、これが友達作りのスキルか…!と感動した私はそのままベッドで寝落ちした。

|