昼休み、借りていた本を返却しに図書室へと向かった。これ、返却お願いします、と言うと、図書委員であろうカウンターに座った人が、ほう、と声を漏らした。夏目漱石好きなのだろうか。それともただこんなメジャーなの読むやついたのか、みたいなやつだろうか。まあどちらでもいいので、返却作業をしてくれたことを確認して、教室へと踵を返す。
教室のドアに手をかけたところで、ドアのガラス越しに菜津と山本くん(仮)が目に入った(やっと彼が誰かわかるわけだ。忘れていたわけではない。…、)。ガラリと音を立ててドアを開けば、二人の視線が一気に注がれた。お、おう、とちょっとビビっていると、菜津が山本くん(仮)をぺしっと叩いた。そして彼はそのまま私の前に立って、「俺、F組の山本柊。佐々木から聞いたと思うけど、来週からよろしくな。あ、あともう一人、F組の切原ってやつ来るんだ」と言った。(仮)ではなくなった瞬間である。私からも山本くんに自分の名前を告げて、気になっていた疑問をぶつけることにした。


「二人って、いつから友達だったの?」


この質問には様々な意味合いが込められている。まずは、普通にいつから知り合っていたのか。幼馴染みの可能性だってあるし、最近知り合ったのかもしれない。そして、その、…友人なのか恋人なのか、ということも聞いているわけだ。隣のクラスの子は、先輩と付き合っているとか聞いたことがあるし、中学一年生でお付き合いをするのも珍しいことではない、と最近気付いたのだ。夏休み中は部内もすごかったし、ね。そういうわけで、関係性をも聞きたかったり…するんだな!ぼっち嫌とかじゃないし!


「入学前にオリエンテーションあったじゃん?そのときに隣の席だったんだよねー」

「そうそう。入学前に友達出来たらいいなーって思ってたから、俺から話し掛けたんだよね。てかなんか、俺の周り全員女子でさ、たまたまなんだろうけど、これが本クラスだったら俺やべえなって思ってた」

「ねー。仮クラスとはいえ、山本哀れだったわ。フビン」


なるほど、オリエンテーションか。…私はオリエンテーションのことなんて一切覚えてないというのに。隣の席なんて緊張で意識もしてなかった。男か女かすら覚えていないのだから悲しい。しかし、あの時点で友達作るとかどんだけハートが強いんだ。人見知りには考えられない行為である。勉強について聞けば、山本くんは理数は割と得意らしい。しかし、菜津も山本くん本人も、他の教科に比べれば、という言葉をやたら強調してくるので、あまり期待はできないかもしれない。まだ見ぬ切原くんは分からないが、今のところ不安が残るメンバーではある。

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