土方夫婦


―貴方達はまるで、桜のようだった。
けれど、桜はいずれ散ってしまうのです。

散る桜のように、途中沢山の仲間と別れ、沢山の仲間がいなくなって行った。


それでも貴方は最後まで…一人になってでも戦い続けた。


私は貴方達のそんな後ろ姿を何度繰り返し見た事でしょうか。






でも、


「千鶴」

『歳三さん、どうしましたか?』

今でもここに美しい桜は咲き続けています。

「…長い夢を、見てたみてぇだ」

私の膝の上で寝ていた歳三さんは、ゆっくりと目を覚ましました。

『どのような夢を見ていらしたのですか?』

「昔の夢だ。近藤さんも他の隊士の奴らも皆居る」

そう言うと彼は起き上がり、まるで夢の中で見た景色を鮮明に思い出すかのように目を閉じました。

きっとその夢は遠くて、手を伸ばしても届かない過去の記憶なのでしょう。

『それはとても懐かしい夢ですね』

不意に懐かしさからじんわりと胸が締め付けられました。

"激動"とも呼ばれた時代を生き抜いた彼にとって、あの頃とはどのように見えるのでしょうか。
私から見える景色とは程遠い絶景の景色なのでしょうか。

「…千鶴」

『はい』

いつの間にか開いていた瞳に、私はニッコリと笑みを浮かべました。

「お前は今、幸せか?」

あの頃の方が幸せだったかとでも言うように、歳三さんは言った。


…悩むこと何て、ありません。


『私は幸せですよ』

私は私で、歳三さんは歳三さんであり、それはいつまで経っても変わらない事。

「…」

『私は、世界一の幸せ者です』

だからあの頃はあの頃のままで、今は今に過ぎない。

「そうか」

今も昔も、私は幸せです。
ただそれだけの話。

だって、

『歳三さんに出会えたのですから』

どんなに過酷だった時代や楽しかった日々が終わったとしても、貴方が居る。それだけで終わってしまった周りの全てが永遠になる気がするの。


大きな木とその先に伸びる幹の関係のように。


私は歳三さんの傍に寄り添うと、そのままギュッと彼に抱きしめられました。

「…愛してる」

彼の温かい言葉に、さっきまでの懐かしさから締め付けられていた感情が一気に溶けていきました。

『私もです、歳三さん』


私はそんな美しい桜に恋をしたのです。













貴方だけが永遠。
(貴方だけを、いつまでも想い続けます。)


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