寺子屋は異様なほど燃えていた。
このくらい燃えているならば、全焼になっても可笑しくはない。

三人はやっとの思いで寺子屋に辿り着いた。
秋だと言うのに、汗がダラダラと垂れる。

「高杉、莎詩乃、銀時!やっと帰って来たか」

桂は寺子屋から少し離れた場所に立っている木に、もたれ掛かっていた。
その姿はだるそうで、ボロボロだ。
だが、火傷がない限り幸いと言えよう。
周辺には寺子屋の生徒達が座り込んでいる。
きっと皆、この炎の中から死ぬものぐるいで出てきたのだろう。
着物が焦げている者、怪我をしている者が多数居た。

だがその集団の中に、灑夜の姿はない。

「ヅラ、灑夜はどうした…!?」

「ヅラじゃない桂だ。
…灑夜なら、あそこに」

桂の指差す先は寺子屋の玄関前。

『灑夜!!!』

灑夜は寺子屋の玄関前に立ち尽くしていた。
その姿は抜け殻のようで。

「…莎詩乃」

力無い声だった。
自分達の知る限り、灑夜はこんなに悲しい声ではない。
灑夜は振り向かないで言葉を続ける。

「いきなり天井から何かが振り落ちて来て、寺子屋が一瞬で燃え始めたんだ」

灑夜の言っている"何か"は、きっと爆弾だろう。
考えたくない現実が、無意識でも莎詩乃の脳裏に想像となって映る。

『どうして…何で…』

「天人の仕業だよ…きっと」


天人。


天人が一体どういう存在なのか、授業で松陽から教わった自分達には嫌でも分かる。

天人の立場を教えた松陽は、天人に恨まれていても可笑しくはない。
今回はそんな彼に酷く憎悪を抱いた天人が、寺子屋に火をつけたのだろう。

吉田 松陽を殺す目的で。



『…松陽先生は…?』

「この中…」

"燃え盛る寺子屋の中に、まだ松陽が残っている。"

言葉にされなくても、痛いくらい伝わった。

「……っ」

灑夜は俯き、必死で泣きたいのを堪えていた。



すると、玄関から人影が見えた。影からして大人の体型。松陽だ。

「先生!!」

『松陽先生っ!!』

「おじちゃん!!」

玄関から出て来た松陽に生徒達は一気に彼の周りに群がった。
そして、抱き抱えていた一人の生徒をその場に下ろした。きっとこの炎の中、逃げ遅れた生徒だろう。

「あぁ…銀時達、帰って来たんですね」

松陽は疲れているようだったが、それでも三人に笑顔で話し掛けた。

「松陽先生、もうここは危ねぇよ。避難しないと…」

「いいえ。まだ寺子屋の中に残された生徒達が居ます。私はその子達を救出したら、皆さんの後を追いますので、皆さんは散歩道のルートである、あの土手へ行ってて下さい
あそこなら、きっと安全でしょう」

必ず、そこで逢いましょうね。

松陽はそう言い残すと、寺子屋へ戻って行った。

『松陽先生!!!』

「待って!俺も行く!!!」

莎詩乃と銀時は松陽の後を追うように、火の中へ入って行こうとした。
だが、

「落ち着け銀時!!!!」

高杉と桂に取り押さえられた。

「離せよヅラ!!お前はこれで平気なのかよ!!」

「平気じゃないに決まっているだろう!!!」

桂の怒鳴り声に銀時は何も答えれず、精一杯睨んだ。
その目には、うっすらと涙が溜まっている。
そして力無くその場に座り込んだ。


『…晋助、』

莎詩乃は何も出来ない自分が悔しくて、思いっきり拳を握った。
頬には大粒の涙が伝う。
拳は血が滲む程だ。

『松陽先生…は、…っ…』

「……帰ってくるに決まってんだろ
あの人は、嘘をつかねぇ」

高杉はいつもの口調で話しているが、その声は酷く震えていた。必死で感情を出さないようにしている。
途端、莎詩乃を取り押さえていた両手の力が抜け、高杉はそのまま莎詩乃の腕から手を離した。


確かに松陽は今まで嘘をついた事がない。
だからこそ生徒達は皆、松陽を信頼する。恩師と言える。

…だからこそ、彼等は怖かった。
今この瞬間、大切な何かを目の前で失いそうで。



不意にガラガラッと玄関の建物が崩れた。その影響で寺子屋は更に炎上し、建物は徐々に崩れ始める。
こんなに崩れてしまっては、外に出られる事は困難だ。

それを見た生徒達は、現実を受け入れたのか、大声で泣きながら次々と土手へ全速力で向かい始めた。


残ったのは、いつものメンバー5人だけ。

灑夜は弱音を吐かないように必死で唇を噛み締める。
唇噛み締める分、まるで搾り出るかのように涙が止まらないでいる。


ついさっきまで自分達の住み、学んだ、この寺子屋が燃える。
その光景を見れば見るほど、頭の中が真っ白になってゆく。
今まで抱いていた感情が溶けるようだった。


銀時は傍らに落ちていた、所々焦げてボロボロになった教科書を見つめる。
その教科書は毎日毎日授業で使っていた、松陽との思い出が沢山残る教科書だった。

思い出がフラッシュバックしたのか、銀時は地面を引っ掻くかのように、土に深い爪痕を残して、そのまま拳を作った。

こんなに泣くなんて、彼の中では初めての事に違いない。
燃え盛る寺子屋を今一度見直し、銀時は泣き叫んだ。










「松陽先生ええええぇぇぇぇ!!!!」














そしてあたし達の光は消えた。
(結局、松陽先生は土手に来なかった。)









―後記―
終わりましたああああ!
寺子屋時代終わりましたっふええぇe(泣

今回、4ページ目が異常に長かったです…
最後辺りは白夜叉降誕思い出して、うおお!!と書きましたww

次回は寺子屋時代のエピローグみたいなものを書く予定です。
その次からは攘夷戦争時代に入ります^^
ああ…皆が大人に…←

因みに、タイトルの「陽だまり」は松陽先生の事です


今後、まれに寺子屋時代の話が書きたくなったら、番外編置き場に書こうと思います))

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
そして長文お疲れ様でした