三 「これで灑夜の奴、元気になるだろ」 『二袋も買ったしね!』 「(いくら好でも、病人に鰹節二袋って、大丈夫なのか?)」 高杉は口に出さず、潔くその言葉を飲み込んだ。 「よっしゃ、帰ろーぜ!こんな時間だから松陽先生、心配してるだろーし」 「だな」 現在6時過ぎ。 辺りは先程よりも暗くなっている。 空に星はない。 曇が邪魔をして、星の光は見えないのだ。 三人は再び、寺子屋へと向かった。 ―――松陽先生。どうして、貴方だったんですか? 今でも後悔が哀しみとなって、あたし達を苦しめます。 「なぁ莎詩乃」 『ん?どうしたの晋助』 「何か煙り臭くねぇか?」 『あ…確かに…』 焚火をしているような、木の燃える臭いが彼等の鼻に届く。 「どこかで焚火して焼き芋でも焼いてんじゃね?あー芋食いてー」 銀時は鼻をほじりながら、生返事のように適当に答えていた。 だが、臭いは歩けば歩く程、きつい臭いになってゆく。 『あたし達、煙りの臭いがする方に向かってない?息してて苦しくなってきた…』 莎詩乃はどこからか襲う煙りの異臭に耐え切れず、手で鼻を摘んでいる。 「でもこっち、どう考えても寺子屋方面だぜ? それに松陽先生がこんな時間に焚火する人じゃねぇしよ しかも今、灑夜が寝込んでるから焚火する確率は結構低いだろ」 銀時の言葉に何かを感じ取ったのか、不意に高杉は斜め上に顔を上げた。 瞬間、彼の中で心臓がドクンと音を大きな立てた。 「……火、」 『晋助?どうし…』 莎詩乃も高杉と同じ方へ目線を移す。 途端、莎詩乃が生きてきた中、一回も感じた事が無いほど酷い身震いが彼女を襲った。 銀時もそれに察知したのか、二人に連れられて斜め上へと向き、彼等と同様、言葉を無くした。 『火、大きいね…』 一見、普通の住宅街や木やらがあり、何も変化などないように見えるが、その住宅街や木の少し奥には莎詩乃達が通う、松陽の寺子屋があるのだ。 しかし、 今そこにある寺子屋はオレンジ色に染まっていた。 けれど、寺子屋の壁や屋根にはオレンジ色の部分など絶対にない。 ユラユラと寺子屋を覆うように揺れているオレンジ色の何か。 それは火だった。 寺子屋が、燃えていた。 「…寺子屋が火事になってる」 『皆…大丈夫、かな…』 「っ…とりあえず寺子屋に向かうぞ!」 三人は咄嗟に走った。 その姿はどこか、自ら進んで絶望の未来へと向かっている自殺行為のように見えた。 |