「これで灑夜の奴、元気になるだろ」

『二袋も買ったしね!』

「(いくら好でも、病人に鰹節二袋って、大丈夫なのか?)」

高杉は口に出さず、潔くその言葉を飲み込んだ。

「よっしゃ、帰ろーぜ!こんな時間だから松陽先生、心配してるだろーし」

「だな」




現在6時過ぎ。
辺りは先程よりも暗くなっている。

空に星はない。
曇が邪魔をして、星の光は見えないのだ。


三人は再び、寺子屋へと向かった。

















―――松陽先生。どうして、貴方だったんですか?
今でも後悔が哀しみとなって、あたし達を苦しめます。















「なぁ莎詩乃」

『ん?どうしたの晋助』

「何か煙り臭くねぇか?」

『あ…確かに…』

焚火をしているような、木の燃える臭いが彼等の鼻に届く。

「どこかで焚火して焼き芋でも焼いてんじゃね?あー芋食いてー」

銀時は鼻をほじりながら、生返事のように適当に答えていた。

だが、臭いは歩けば歩く程、きつい臭いになってゆく。

『あたし達、煙りの臭いがする方に向かってない?息してて苦しくなってきた…』

莎詩乃はどこからか襲う煙りの異臭に耐え切れず、手で鼻を摘んでいる。

「でもこっち、どう考えても寺子屋方面だぜ?
それに松陽先生がこんな時間に焚火する人じゃねぇしよ
しかも今、灑夜が寝込んでるから焚火する確率は結構低いだろ」

銀時の言葉に何かを感じ取ったのか、不意に高杉は斜め上に顔を上げた。
瞬間、彼の中で心臓がドクンと音を大きな立てた。

「……火、」

『晋助?どうし…』

莎詩乃も高杉と同じ方へ目線を移す。
途端、莎詩乃が生きてきた中、一回も感じた事が無いほど酷い身震いが彼女を襲った。
銀時もそれに察知したのか、二人に連れられて斜め上へと向き、彼等と同様、言葉を無くした。



『火、大きいね…』



一見、普通の住宅街や木やらがあり、何も変化などないように見えるが、その住宅街や木の少し奥には莎詩乃達が通う、松陽の寺子屋があるのだ。
しかし、
今そこにある寺子屋はオレンジ色に染まっていた。
けれど、寺子屋の壁や屋根にはオレンジ色の部分など絶対にない。

ユラユラと寺子屋を覆うように揺れているオレンジ色の何か。


それは火だった。


寺子屋が、燃えていた。



「…寺子屋が火事になってる」

『皆…大丈夫、かな…』

「っ…とりあえず寺子屋に向かうぞ!」



三人は咄嗟に走った。


その姿はどこか、自ら進んで絶望の未来へと向かっている自殺行為のように見えた。