「皆さん、今日は特別授業です」



現在、7月7日の午前0時過ぎ。世間では七夕の日だ。
今日の夜空は一面晴れ。
暑くなり始めた初夏にも関わらず、夜空をただ見ただけで、身体が涼しくなるほどだった。

そんな夜空の下、寺子屋の生徒達は、塾の近くにある裏山の頂上に居た。

「だから今日、天体観測やるから昼間の授業はなかったんだな」

銀時はだるそうに、と言うか眠そうに、あくび混じりで莎詩乃に話し掛けた。

『ちょっと銀時、今松陽先生が天体の説明してるんだから、話聞かないと』

「だって眠ぃよぉ…」

『昼間あんなに爆睡してたのに…
銀時はどのくらいの睡眠時間が必要なのよ』

「えーっとぉ…1…、2、3、、、」

『いや、本気で数えなくて良いから!!』

今の銀時は半分寝ぼけてるから、ささやかな事でも絶対本気にするな…。
莎詩乃は心の中でそう呟いていた。

「それでは皆さん。一人一人望遠鏡で夜空を覗いて見ましょう」


はーい!


松陽の言葉に返事をする生徒達の元気な声だけが夜空に響いて消えて行く。
そして生徒達は我先にと一人一人並ぶ。

その列の中に並ばず、その列の光景を眺めている者達が居た。
高杉と桂だ。

列に並んでいた灑夜はその二人に気付いたらしく、問い掛けた。

「あれ?二人共並ばないの?」

「いや、俺は列が空いて来たら並ぶとする。高杉はどうする?」

「…肉眼で見れるならそれで良い。そんでもって、かなりだるい」

高杉は桂の隣でしゃがみ込み、そっぽを向いた状態で答えた。

「高杉の場合、"だるい"ではなく"眠い"んだろう
莎詩乃に話し掛けなくて良かったな。
もし話し掛けてたら今頃…」

桂は静かに莎詩乃を指差した。

「銀時みたいになっていたはずだ」

銀時は莎詩乃に頬を抓られ、起こされていた。

「…ざまぁだな銀時」←笑

「莎詩乃、夜中でも元気だね!」

「…灑夜、これは元気と言うのか?」

あっはっはっは。と灑夜はふざけたように笑った。
だがそのふざけた笑い声でも、どことなく声が松陽に似ていて…。
その笑い方で思い出したのか、「あ、」と桂は声を漏らした。

「どうしたの鬘君?」

「鬘じゃない桂だ!てか貴様の呼び名は、あまりにもややこし過ぎるだろう!!!」

なんせ、イントネーションと漢字の問題だ。無理もない。ややこしいのも当然だ。

「それはそうと、灑夜。お前、今日誕生日ではなかったか?」

「え!まさか鬘君、覚えててくれたの!?」

「鬘じゃない桂だ!
覚えているも何も、七夕の日に誕生日は印象深いからな。一発で覚えた」

「そういえばそうだったな」

さっきまで口を閉ざしていた高杉が、久々に口を開いた。

「七夕生まれ、ねぇ」

『何とロマンチックな…』

「!!銀時、莎詩乃!いつから人の会話に!!」

何やかんやで最終的にはこのメンバー嫌でもが揃う。
これは腐れ縁とでも言うのだろうか。



『…思ったんだけど、灑夜は何で"灑夜"って言うの?』

「莎詩乃の言った通り、確かに気になるな」

「そうか?」

「高杉はロマンがねぇなぁ〜」

「(ボソッ)うるせェ白髪天パ」

「ちょ、晋ちゃん!今何て言った!?」

『二人共落ち着いて!』

莎詩乃は二人の間に入って喧嘩を止めさせる。
喧嘩が落ち着くのを確認すると、灑夜はニッコリと笑顔で答えた。

「俺の名前の由来か
そうさなぁ〜





俺の名前は、松陽おじちゃんが命名してくれたんだよ」





吉田 "灑夜"
この名前は、大好きな松陽おじちゃんがつけてくれた自慢の名前。