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「…ったく、いい加減にしなさいよ。
こんな夜中にさァ、ご近所の迷惑も考えなさいよ。
今時、こんな夜中でも起きてる子供はいるんですから。ね、瑚町」

『チャーン
でも、お二方に何があったかはあえて聞かないぜ』

「その通りだ瑚町」

坂田さんはアタシの目の前で親指を立てた。

「その通りって言う前に、アンタにボコボコにされたんだけど」

そう答えるおっさんの眼鏡は片方のレンズが欠けていた。
これはさっき、坂田さんがボコッた時の痕跡。

『おっさん。ボコボコは理由じゃないっすよ。
むしろ、坂田さんのボコボコはお二方の喧嘩をカモフラージュした感じっすよ』

「カモフラージュってつまり、喧嘩を悪化させたって事だよね」

「とりあえず飲みましょうや」

呑めるチャンスを待ち構えていたかのように坂田さんは声をあげた。

「つーかおたくら誰?」

そんな坂田さんに着ぐるみはツッコんだ。

アタシ達は今、鉄橋の下にある屋台のおでん屋に居る。
いやぁ、こんな寒い日におでんは楽園だね。
坂田さん何か調子に乗って熱燗三本も注文してるし。

「で?何?
何であんな喧嘩してたの?」

『坂田さん。アタシ的には、お二方が何者なのか知りたい』

「あー、確かにそれも知りてぇな」

「え?」

瞬間、おっさんの表情が固くなった。
冷や汗が頬を伝っている。

こりゃあ警察としては放っておけないだろww

「運送業か何かやってる方ですか?」

おっさんはしどろもどろで答えた。

「いや…え?けっこう丸出しじゃ…
あの…規則であんまハッキリ言えないんだけど、ソリに乗って子供達に夢を届ける…」

「義賊っぽいカンジ?」

『ソリって犬ゾリ?』

「何でそこで犬ゾリになるんだよ意味分かんねーよ!!」

おっさん…しどろもどろな台詞が、いきなりが鋭くなったなww

するとそこで坂田は目をカッと見開いた。

「分かった!!今の瑚町の質問で全て分かったわ!!」

『マジでか坂田さん!!』

「あの質問で分かったのがスゲーよ!!」

うん。おっさん、やっぱりツッコミ鋭いね。
新八君と張り合えるんじゃないかい?何て思った。

「「サ」から始まる名前だよ?分かってんの?」

「分かってるっつーの!アレだろ!?サタンだろ!?」

「惜しい!!けど遠い!意味合い的には!!」

『じゃあサイゴンか?』

「随分離れたな!!サイゴン誰!?」

おぉ…着ぐるみもなかなかのツッコミをするw
アタシは小さく笑い、そして注文したオレンジジュースを飲んだ。
氷が入っていないのに凄く冷えている。冬の力って本当に凄い。

「フフッ旦那、お嬢さん。余計な口挟んですいやせんが俺はもうわかりましたよ」

不意に、おでん屋のマスターがダンディな顔をして会話に入って来た。
頭に巻いてある鉢巻きが引き締まって、更にダンディに見えるぜ。

「ホラ、あれですよ
ヒントは股の間にぶら下がってる…」

「違うから!!何そのヒント?一体どんな答えに結び付く訳!?
年頃のお嬢さんも居るんだからそれは危険領域だろ!!」

そこで坂田はため息をついた。

「まァまァいいや
サンコンでもサンタでも」

「いや今一回言ったよ。今一回正解行ったよ」

『「え!サンコン!?」』

「何でそうなるかなぁ!!」

「旦那、お嬢さん。余計な口挟むようですが、俺はもう分かりやしたよ」

そこでまた、おでん屋のマスターがダンディな顔をして会話に入って来た。

「ホラ、この方達はソリに乗って通り過ぎざまに恥部を露出する、あの方達ですよ」

「違ェェって言ってんだろ!
お前何!?ダンディな顔をして頭ん中そればっかか!!」

「いい加減にしなさいよもう」

そこで坂田さんが頭を掻きながら言った。

「アンタ等、そろそろ正体バラしたら?
このお嬢さん、こう見えて幕府の犬やってるから、変に答えてると後々面倒になっちゃうよ〜?」

『幕府の犬言うな。普通に真選組って言えや』

そう言い終えてから、オレンジジュースと同様、注文したおでんのちくわを一口かじった。
坂田さんも軽く笑みを浮かべると、お酒を飲んだ。

するとアタシの横でおっさんがためらっていた。
言おうか言わまいか迷っているみたいだったけど、少し経ってから決心が付いたのか、重い口を開いた。

「プレゼント!プレゼントだよ。
ソリに乗って、よい子のみんなにねプレゼントを配るのが仕事なわけ。
でもそのソリがさァ、大破しちゃってさ。
どーにもこーにも」

おっさんは一気にそう言うと、お酒をガーッと飲み込んだ。

「ソリなんてなくたって仕事くらいできるだろ?」

「ダメなんだよ!
ソリ・トナカイ・赤い服は俺の三種の神器なの!
イメージ壊したくないの!伝説になりたいの!」

『え、まるでクリスマスの日にやって来るあのおじさんじゃん』

「だからそうだっつーの!
もう正体隠すのもめんどくせーよ!!」

すると横に居た坂田さんが薄く笑みを浮かべた。

「何だかよくわかんねーけど、そんなに困ってんなら力になろうか?」

そう言いながら、懐から小さな紙を取り出した。
紙には"万事屋 坂田 銀時"と記されている。

「俺ァ、こういうモンで。
頼まれればなんでもやる万事屋ってのをやってる。
払うもん払えば力になるぜ」

気のせいか坂田さんの目がきらめいているような気がした。

「ああ!?なにができるってんだよ」

「今スグ、ソリを用意できるってのか!?」

おっさんと着ぐるみは坂田さんを軽蔑しているみたいだ。
けれど坂田さんは「お安い御用だ」と答え、椅子から立ち上がった。

「おい、瑚町」

紛れも無く坂田さんがアタシの名前を呼んだ。

『なんすか?』

「ビジュアルは警察のお前に任したわ」

『警察関係あるの?まぁ、分かりやしたわ』

そう答えると坂田さんは納得したのか、そのままソリを探しに行った。




残されたアタシ達はと言うと…


『んー…じゃあお二方、とりあえず脱いで』

「「いきなり変なこと言うなこの娘!!」」

おっさんと着ぐるみは綺麗にハモった。

『あなた方は、子供達に夢を配るんでしょ?
今の姿のままじゃあ、おっさんのお腹を見ただけで失望っすね。
うん、君には失望したよ』

「おい、今のはあの国民的ロボットアニメn『赤色は膨張色で、実際よりも大きく見せる錯覚があるんです。
そして何よりサンタの赤色は血の色っすからね』

「そんなんじゃねぇよ!
そしたら俺、今までどんだけ周りの人に悪だと思われてたの!?」

『はい、というわけで脱ぎましょう!
そこの着ぐるみもね!
お二方、もっとシックな感じで行きましょ!』

「ちょっ…三種の神器g…」

「うぃーす、待たせたな」

背後から聞き慣れた声がした。
無条件にその声の方へ顔を向ける。
坂田さんが帰ってきたのだ。…ソリを持って。

「よし、乗れ」

坂田さんが差し出したソリは…ん…?ちょっと待てよ…。

坂田さん以外の三人は一瞬沈黙した。

「いや、それ…」

「ソリっていうか、リアカーじゃね?」

…しかも武蔵っぽい先住民居るしww


「リアカーじゃねェ。
マイ スゥイートホームじゃ!」

「あっ すいません」


武蔵っぽい先住民の声が寒い空によく響く。