3 『総悟!見回りの時間だZE!』 アタシはいつも通りに隣室の襖を開けた。 アタシの部屋の隣は総悟の部屋だ。 部屋が隣同士とならば、神山に邪魔される心配は多少なりとも少ない。(←藺・蘭調べ) 「瑚町一人で行きなせェ」 そしていつも通りに総悟は生返事をする。 因みに今、総悟はお昼寝の真っ最中だった。 彼の愛用しているパッチリおめめの赤いアイマスクが異様に目立つ。 『何言ってんの!外凄く晴れてるし、行こうよ』 「眠い」 ↑即答。\(^q^)/ 今日は異様にやる気が湧かないらしい。 声からして、本当にだるそうだ。 『いや、眠そうなのは一目で分かるから!』 アタシは小さな溜め息をついた。 『(どうしよう…もし、このまま神山が来たら…)』 不安が段々焦りになってくのが分かる。 考えたくもないのに、嫌でもその考えが幾度と頭を過ぎった。 「じゃあこのまま寝させろィ」 『Σコラコラコラコラ待て!! もしかしたら見回りしてる途中、何か良いことあるかも知れないよ? だから行こうって!』 頼む!「分かった」って言ってくれ!300円あげるから… 「あー…もー、分かったから」 ついに観念したのか、総悟はそう言うと、だるそうにゆっくりと起き上がりアイマスクを外した。 アイマスクの下から吸い寄せられそうなほど綺麗な色をした目が現れる。 『(奇跡が起きたぁぁ!やった!皆やったよおお!!)』 アタシは心の中でガッツポーズをした。 これで第一ステージクリア、と言うところだろう。 ――――― ――― 「何か腹減った」 『あー…確かに今お昼時だもんね〜』 アタシ達は今、かぶき町を見回っている。 かぶき町には個性的な人達が沢山揃っているけれど、かぶき町四天王達のおかげなのか、他の町と比べればそんなに大きな問題はない。 だから本っ当に平和な時は、見回りをしてても散歩をしているような感じだ。 そんな平和なかぶき町がアタシは好きだ。 誰も悲しまず、いつでも皆笑顔でいる町だから。 『そ、そういえば、今日は七夕だったね』←棒読み 今日のかぶき町は"七夕"ということで短冊やら飾りやらで町中は華やかだ。 七夕一色のかぶき町を見渡しながら、"ロマンチック誕生日大作戦"を成功させるため、何となくという振る舞いで七夕の話を持ち出してみた。 あ、ついでにこの大作戦の命名者はさっちゃんです。 …果たして総悟は何と答えるのか。 気になって、さりげなく総悟を横目で見る。 「…ああ、そうでしたねィ っつー訳で瑚町何か奢れ。腹減りやした」 『Σ何でそうなんだあああ!!!』 予想外の反応すぎる! 七夕の話から奢れって…おまっ… 想定外な言葉に驚きを隠せないアタシとは対照的に、総悟は平然と涼しい顔をしている。 ム…ムードの欠片もねぇ…! 『そもそもアンタ、いつもアタシに奢らせてるでしょうが!』 「瑚町、今日は今日でさァ。過去の事は振り返るもんじゃねェよ」 『Σいやいやいや!!いきなりそんな事言われて忘れられるかよ!!((゚Д゚;))』 だーっ!これじゃいつもの日常と何も変わらないじゃないか! 何か、何かロマンチックな話題を出さないと… どうしてこういう時に限ってネタが浮かばないんだろ… 『そうだ!そんな事よりも総悟! 今日七夕だし、何かお願い事とかした?』 少し無理があったかな…。 少し心配になるが、それでも総悟は表情一つ変えずに答えた。 「願い事、ですかィ?」 すると不意に総悟は真顔になり、歩き続ける足をピタリと止めた。そして静かに俯く。 「……」 『?どうした…?』 「……き…」 『き?』 俯いてて上手く総悟の顔が見れない。 一体、何を言ってるんだろ。 「……すき、」 『え』 アタシは一瞬自分の耳を疑った。 …総悟は今、何て言った? 何が何だか分からなく、言葉を考えるうちに徐々に状況を理解していく。 『(今、"すき"って言った…?)』 体中の血が一気に頭に上ってく気がした。 『(ヤバい…アタシの心臓の音、凄い…)』 心臓の音が聞こえないよう、さりげなく総悟から一歩離れる。 緊張して唇が乾くのが分かった。 『総悟…、』 「そうでさァ瑚町、すき焼き食いに行きやせん?」 『…へ?』 ……"すき"って、 すき焼きの"すき"かよおおおおおおおお!!!! 『(つか、パターンが王道すぎるわ!!)』 そういえばさっき「腹減った」とか言ってたなぁ。と、今更になって思い出した。 『そうだね、食べに行こうか…』 多分、すき焼き代はアタシがお金を払うんだろうなぁ(泣) アタシ達はゆっくりとすき焼き店へ足を運んだ。 残すは後半日。 |