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これはまだ、俺が16歳で、瑚町が12歳の頃っていう、数年前に起こった昔の話。


「……」

その時俺は何気に瑚町をじっと見ていた。
瑚町はこの時まだ入隊して日が浅かったから、今とは違ってめっちゃ真面目に働いててさ。
この時もせっせせっせと俺がサボった書類に色々と書き込んでいた。

昔の瑚町は今とは違うサラッサラのロングヘアー。
髪の長さは多分…背中の真ん中位、だったような…。
とりあえず俺は、長い髪だなって思って、その髪を見ていた。俺の姉上だってそこまで髪は長くなかったから、これだけ長いと不思議に思えたのかも知れない。

そんな瑚町の髪を見て、何気軽い気持ちで言ってみた。

「瑚町さぁ…髪気ったら?」

『Σえっ!!!』

俺の一言に瑚町は一瞬で青ざめた表情になった。しかも涙目。
そして自分の長い髪を両手で掴んだ。

『何で!?キモイ?うざったらしい!!?』

「自分責めすぎでさァ。しっかりしろィ」

本当に軽い気持ちで俺は言ったのに、瑚町は真に受けちまったみてェで、異常な位、自分の周辺に負のオーラを出していた。

12歳の頃"まで"のアイツはこんな感じ。
超泣き虫。心配性。
…まぁ、今も裏っ側の性格として治ってねェけど…因みに超がつく位MPがない。

『じゃあ何で?』

「だってよ…ロングよりセミロングの方が動きやすくねーかィ?」

真選組は戦うし、髪長いと視界が狭そうだし…つか第一に、俺から見て瑚町にロングヘアーは似合わなかった。
他の奴らは似合う似合うって絶賛してるけど。

『もしかして…好みがセミロング派!?こだわり!?』

「そーゆー問題じゃねェし。てか、その顔怖ェから止めろ」

瑚町はどっかの王道なホラー映画に出て来そうな顔になっていた。髪が長いから、なおさらそう見えたのは言うまでもない。
…俗に言うカオスな状態だった。
そんな事を気にせず、瑚町はその表情を変えずに話を続ける。

『じゃあショート派!?ゴメン!アタシロング派!!』

「そーじゃねーよ!!何で好みに走んだよ!!あえて言うならボブ派!!!
…土方さんはどうですかィ?」

「あ?」

『Σつーか居たんスか!!』

俺は近くに居た土方のコノヤローに話をなすりつけた。土方のアホなら適当に言うだろって思ったから。
すると土方の馬鹿はいきなり真顔になりやがって、

「…俺は…その…ミ…ミツ…っ……ミツ…ミ…」←赤面



殺してやる☆



『(落ち着け沖田アアアアアア!!!!)』

瑚町は後で、俺は刀構えの瞳孔かっ開いて笑ってた。と、その時の状況を身震いしながら言った。無意識ってそこまでも人を変えるんだって思った。

…ま、その事は置いといて…

「何アレ。照れてんのか?照れてんだろ?ざけんなコノヤロォォオオ!!」

「総悟ォオ!!べらんめぇ語忘れてっから!!そして刀を置けっ!!!」

あー、マジムカつく。土方のあんちきしょーはどこまで姉上を…。
…今俺の事シスコンだと思った奴、前に出ろ。


つん…

その時だった。
触ったら一瞬で壊れてしまいそうな物を触るかのように、本当に弱い力で俺の袖を瑚町はつまんで来た。

俺が瑚町の方へ振り向くと、アイツは俯いてどんよりとしていた。負のオーラが増加したんだと思う。

『…髪、…切る…』

と一言言った。
すっげー震えてる声だった。

「は…?え?何で?」

俺は何故か焦った。
自分がこの髪型で良いなら別に切らないでも良いのに…。
それでも瑚町は

『…何でも……』

と言った。
そしてゆっくりと顔を上げたかと思うと、俺に目も合わせずに、

『…髪、今から切る…』

今にも零れそうな涙を必死に堪えてた。

「(俺…嫌われた…)」

…俺、ものっそ地雷踏みました。
ってか、心に刺さった。

俺の隣で「あーあ」と苦笑いしている土方の馬鹿に舌打ちはしたかったけど、瑚町のツラ見ると、そんな事をする気もなくなった。


沖田=ドS→世界は俺中心→自己中→俺の命令聞け→じゃないと嫌う

恐らく瑚町の脳内は上の回路図みたいに、俺の言う事を聞かなきゃ嫌われるって思ったんかも。

…どんな人間だ俺は。


因みにその後、本当に奴は髪を切りやした。