ゴミ箱 | ナノ


ジキルとハイド


きっとこれは白石くんじゃないです。暴力表現ありでただただ暗い








地獄があるというならきっとこんな場所なんだろうな。なんて現実逃避をしているとグッと引っ張られ首元が締め付けられる、苦しい。赤い紅い首輪から伸びる朱いリードは彼の手の中に握られている。こちらに来い、の合図だろう。でも、今日は身体を動かす程の気力も無ければ彼に近づきたくもない。わかる、今日はいつにも増して機嫌が悪いのだ。
彼は意固地にその場から動かない俺に痺れを切らしまるで散歩を嫌がる犬を引きずるみたいに強く、強くリードを引っ張る。



忌々しい首輪は彼の居る方向へ引っ張られるのと同時に俺の首を圧迫した、引っ張られる力に負けた俺は引き摺られながら彼の足元にうずくまりながら倒れこむ。
ある程度空気を確保出来るようになったので大きく肩で息をして肺に酸素を取り込もうとする、そんな俺をひと蹴り。

「はっ、何一丁前に反抗しとん?…まだ自分の置かれた立場分からへんの?」


リードを引っ張られて一瞬、腹を見せた俺の腹をすかさず蹴るとそれはちょうど鳩尾に入る。吐き気どころか頭を揺さぶられるような気持ち悪さに襲われておぇ、と咽ぶ俺。胃の底から這い上がるモノが出てこないように無理矢理抑え込むと代わりにじわ、と涙が出てきた。
初日、あんなに泣き叫んでたのにまだ涙が枯れていなかったのかと自分でも驚いてしまう、どうせならこんな涙など枯れてしまえばよかったのに。

「ほんま、ほんまうっざいわ。何泣いとん」と理不尽にまた蹴りを入れられる。気を抜けば先程押さえ込んだものを戻してしまいそうになる。でもここで吐けばさらに酷い目にあうのは知っているから意地でも戻さないように我慢した。
それからも何度か蹴りが俺の腹や背中に入る。あえて誰にも見られない場所を狙うあたり彼は確信犯だ。それでいて絶対に手は使わず必ず足か道具だけ、理由はいつか話していた気がするけど今はそんなことなど関係ない。手で殴ろうが足で蹴ろうが俺の身体の方がぼろぼろになる事実は変わりはしないのだから。


この薄い一枚の布の下に隠された多くの痣。こんな傷が消える日はいつ来るのだろう、なんてありもしない未来を想像して目を瞑る。身体は痛みに慣れてしまったはずなのにまだ痛む。なぁ、痛い、痛いよ。白石。








始まってから何時経ったんだろう。意識が朦朧とする。はは、身体中こんな傷、痣だらけなのに死ねないなんてひどい話だ。いっそのこと殺してくれれば楽なのに…

あの日から付いている首輪は薄汚れて、ところどころ血がこびりついてしまっていた。俺はいつからここに居るのだろう。ほこりまみれで、床は冷たく、薄暗い牢獄みたいなこの部屋に。

酷く静かな部屋に陽気な音が鳴り響く。ああ、携帯の着信か。
俺が部屋に居るにもかかわらず電話に出る白石。俺が助けを求めるとか思わないのだろうか。まあ肝心の助けを求める声はそんなに大きな声は出なくなったから意味なんてない上に電話の相手もろくな奴じゃない

「もしもし、ああ、お前か……いつもの場所おるけど」

「ん〜、俺今日はもう帰るから好きにし」

それじゃ、


電話を切りスマホをベッドに投げ捨てるとそっと俺の元にやってくる。
痛かったなぁ、可哀想に。なんて発言をし始めたら終わりの合図。

はー、でもやっぱりストレス発散って大切やね。って別人に戻った彼はそっと俺の髪をくしゃくしゃとまるでペット相手かのように強く、優しく撫でる。
俺を何度も蹴り飛ばした彼とは全くの別人で、本当に同じ人物なのか疑ってしまう。

ほな、帰ろかなんていつも通り、お手本のように不気味なくらい綺麗ににっこりと笑う彼の本当の姿を知っているのはきっと俺だけなんだろう。


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