ようこそ、蟻地獄へ 赤也くんが赤也くんじゃ無いです、口調もほぼ別人です 本格的ではありませんが暴力的表現、嫌われ要素が含まれております キャラのイメージを損ないたく無い方や注意事項で受け付けない要素があった場合閲覧は推奨致しません ご注意下さい アイツ、赤也の第一印象は最悪に近い。いや、最悪だった。 あれはいつ頃だっただろうか、そんなに昔の事では無いはずなのにまるで遠い昔の事のようでぼやっと頭に霧がかかりよく思い出せない。 しかしそんな思い出せないような出来事だったはずなのになぜ、赤也の印象が最悪だったと断言できるのか、とりあえず順を追って説明しよう。 先程も言った通りその時の記憶はあんまり覚えていない、ただ明確に覚えていたのはいつのまにか赤也とテニスコートに入っていた時からの記憶だ。 まあ、もちろん結果は言うまでもなく俺は後輩に手も足も出ないまま呆気なくラブゲーム、要するに俺の無点という無残な結果で終わってしまったのだが。 そこまでならまだ良かったんだ。「ああ、悔しい」それで終わっていた筈だった。 だが奴はその後何と言っただろう 「はは、よっわ。…ねぇ今どんな気分?年下に一点も取れずに負けて、悲しくならない?」 俺だけに聞こえるような声で、俺の目の前ではっきりとそう言ったんだ。 正直、悔しさとか苛立ちを越して驚愕したよ。どうやったら初対面の、しかも先輩にそんな屈辱的なセリフをなんの躊躇いも無く言えるのだろうかと神経を疑うほどだった。 茫然と立ち尽くす俺の姿を見ながら口角を上げ、目を細めて再び投げかけられた数多くの侮辱的な言葉はもう覚えてない、しかしこの出来事だけは今でも忘れられないくらいの衝撃だったことは確かだ。 これが赤也に対する印象が最悪だった理由。 その後俺はその暴言を無視し、何事もなかったかのようのコートを出たのだが最後に見えたのは赤也のつまらない、とでも言いたげな表情だった。 あの日以来、赤也の俺に対する態度は酷いものだった。 生意気で「敬う」という「う」の字どころか俺を軽蔑し見下すわ、テニス関連のことでは本当にテニス部なのか、弱い、相手にならないなどの暴言。あげくの果てには同学年のレギュラーと比べられてしまうざまだ。 しかしツラツラと並べられるその言葉は真実そのものであり、俺は反論するどころか何も言えず、俯いたままぐっと拳を手のひらに爪の後が残るくらい握りしめ、その言葉を聞きながら我慢することしかできなかった。 もちろん赤也と親しそうなテニス部員に相談だってダメ元で頼んでみたりもした。でも「俺から言っとくよ」と言うだけで次の日も全然赤也は変わる様子などないのが現実で、俺は既に諦めの境地にいた。 そして日を重ねる度に赤也による、暴言、陰湿な悪口、酷い時はこっそり物を盗まれたりするもはやいじめのような事が起き、日に日に俺は精神的に追い詰められていった。最近ではテニスをしようとすると手が震え始めプレイにも支障が出てくるレベルにまで。ついに俺は部活を辞めていた テニスを辞め数日経った今日、俺は「お前の忘れ物らしき物が部室に置いてあったから取りに来て欲しい」と言われていたことを思い出す。今となってはもう近づく事もなくなってしまったあの場所へ行くのは若干気がひけるが自分の物くらい自分で取りに行かなければ、それに部室くらいなら外で練習している時間帯に行けば出くわす事も無いだろう。 そう思い俺はその時間になるまでぼーっと空を見つめていた 誰も居ないであろう部室に入り込んで手早く用事を済ませて帰ろう、そう思いドアを開けると俺は思わず足を止めてしまった 「はいどーぞ、アンタが取りに来たのコレでしょ?」 そこに居たのは俺が今までなくしていた、いや盗まれていた物一式を透明なビニール袋に入れてそれを掲げる赤也だった 「俺、先輩が居なくてちょー寂しかったんすよ?でもこうやって何も考えずにのこのこ部室に来てくれるあたりやっぱ俺より頭悪いんですね、せんぱい」 壁にもたれかかりながらゆらゆら袋を揺らして楽しそうに話し始める。なんで、練習は…?そんなことを考えていても赤也は話すことを止めようともせず話を続ける。 「てか何で辞めたわけ?俺、辞めて良いなんて一言も言ってませんよね?」 「…まあいいや、じゃあ今からテニスしましょうよ、ね先輩?」 ドサっと袋を投げ捨て、開いたその手でラケットを持ちながら一歩一歩近づいてくる赤也。 「あれ、でも先輩…あーそっか、そういえば俺に一点も取れずに負けちゃったんだっけ?」 そこからもう二度と聞くことなんてないと思っていた言葉の数々が耳に入ってきた。俺は何を思ったのか、いつのまにか握りしめていた手を開き、赤也を押し倒し、気づいた時には胸ぐら掴んで頬を感情任せに殴っていた。 何の抵抗どころか反応も示さずただ、殴られながらこちらを見つめる赤也の様子が変だった。なぜ抵抗しないんだ。俺は急いで手を止めていたがどうやら遅かったみたいだ。 まるで計画通りだ、とでも言わんばかりにほくそ笑みながら「手ェ、出しちゃいましたね。先輩?」と、俺が目一杯殴った頬に手を当てそこを何度も確かめるようになぞり恍惚な表情を浮かべる赤也。 その瞬間まるで鋭利な刃物で背筋をなぞられているような戦慄が走る。いけない、早くこの場から逃げないと、と脳内では分かっているのに身体が動かない。 ガチャ、 その時 部室の扉が開く音が聞こえた。 「おい、赤也いつまで待たせん…だ」 扉が開いて見えたのは丸井の顔だった。 目を見開き急いでこちらへ駆け寄ってくる、ちがう、ちがうんだ。と頭で言い訳を考えるがこの状況ではそんなこと考える暇も無く、 「お前っ…何やってんだよ!!」 俺は力強く引っ張られグッと首元を締め付けられた。鋭い眼差しと、ゴミを見るような目で俺を捉える丸井がそこに居た。 それもそうだろう、側から見ればあれは完全に俺が赤也を殴っていた様にしか見えないし、事実俺は赤也を殴っていたのだ、その証拠に赤也の頬は赤く染まっている。 「…見損なったぜ、苗字。悪りぃがこの事は先生と幸村くんに報告させてもらう」 パッと手を離されどん、と勢いよく後ろに尻餅をつく。もう一度体に力を入れて立ち上がろうとするも恐怖の所為なのか足も手も竦んで思うように動かせない。 そんな俺の姿も見ずに近くにいた赤也の手を握り起き上がらせている丸井。 心配そうに俺が叩いた頬を覗き込む。 「大丈夫か?赤也……あー、赤くなってるし一旦冷やしに行こうぜ。俺幸村くんに保健室連れてくって連絡入れに行くから先に行ってろよ」 と心配そうな声で彼を介抱する丸井くん。去り際に俺の方を睨みながら出て行ったのは気のせいではないだろう。 先に行けと言われたにも関わらず赤也は踵を返し真反対の俺の方に近づいてくる。それも、一歩一歩威圧するかのようにゆっくりと。 後ずさりも許されず俺は隅に追いやられた。 ああ、見え見えの罠、蟻でさえわざわざ踏み入れる事のないその地獄にいつ俺は足を踏み入れてしまっていたのだろうか。 一度足を滑らせればそこからは逃げることもままならず、もがけばもがくほど穴に落ちていくのみ 捕食される運命を辿ることしかできないその穴に俺は…一体どこで… きっと明日になれば俺が赤也を殴った噂、いやその事実は瞬く間に尾びれを付けて学校全体に広がるだろう。 こんなの、理不尽じゃないか、俺は…俺はどうすれば良かったんだ。 「あはは、なァに?その顔…誘ってんの?」 グイッと無理矢理頭を鷲掴みされ顔を上げさせられた。くつくつと笑いながら首に触れるその指は異様に冷たかった。首に置かれた指はゆっくり力を込め始め俺の気道や喉仏を遠慮なく絞めた。 一旦手の力を緩め、ここじゃなかったと呟く声が聞こえた。緩められた間に俺はごほっごほっと咳き込み、酸素を取り入れようとするがその後間髪を入れず頸動脈の部分に力を込め始める赤也。 「あーあ、明日どうなるか見ものっスね、いじめられちゃうかも?先輩が俺にしたみたいに馬乗りされて気絶するまで殴られたりするんスかね?あー、でもせっかく先輩綺麗な顔してんだから顔以外にして貰えば?」 目を細め笑う赤也。絞められた首はさっき程ではないがそれでもやっぱり苦しいわけで、力を振り絞って赤也の腕を掴み離させようと試みる。 …もちろんそんな力では外せるなんて到底無理な訳で、 「ねえ、今どんな気分?」 どこかで聞いたことのあるセリフだ。 しかし首を絞められた状態で満足に話せるわけないので俺はただその後に来る言葉を聞くことしかできなかった。 「俺はね、すっげー幸せ。好きな人の絶望する表情も苦しむ顔も見れて嬉しい」 「先輩の怒った顔も可愛かったけど、…はは。やっぱり絶望して泣いてる顔の方がスッゲェそそるわ」 だから、 「だからそのまま穴の底に、落ちていってくださいね。一番奥の底で先輩のこと待ってますから」 首からパッと手を離しおそらく保健室へ向うであろう赤也の背中をぼんやり見つめる。 俺はやはり床から立てなかった、明日、俺はどうなってしまうのだろうか。そうぼんやり他人事のように思考を巡らせると次第に身体の力が抜けバタッと床に倒れこむ。床の冷たさが気持ちよかった。 その後、ある珍しい人物が俺の元に訪れた 「…や、なぎ」 俺は赤也を殴ったことについて聞かれるのだろうと身構えていた。 しかし出てきた言葉はあまりにも予想していなかった言葉で、「すまない、苗字。余計なことに巻き込んでしまって。……赤也がどうしても、と言うのでな」 そう言って赤くなっているであろう俺の首に指を滑らせてくるので俺は思わず身構える。 「これでも俺なりに努力して赤也を説得させたつもりなのだが…」 そこから目を見開き発された言葉は 「悪いが諦めてくれ、恨むなら自分の運命を恨むんだな」 の一言だった その時、同時にどこから声がした気がする ようこそ、地獄へ。って back |