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▼ お家デート



(リクエスト)


「お疲れさん、名前。今日も一緒に帰らん?」
空も暗くなって来た頃、やっと終わったと一息つきながら部室を出るとそこには白石が立っていた。部活が終わる時間もバラバラなのに今日も待ってくれていたのだろう。わざわざ待ってくれなくても良いのに、と言えばだって俺ら恋人やろ?当たり前やん。となんとも男前の返事が返ってくる。ああ、コイツがモテるのってこういう細かな心遣いというか優しさなんだなって改めて実感した。

一緒に帰っている途中俺はふとある事を考え始めた。白石の横顔がカッコいいとかそういう話じゃなくて、俺ら付き合い始めて1カ月、恋人らしい事あんまりしてない、と。よくよく考えたら一緒に帰るくらいで夜に電話をしたり、一緒にデートとか、キスとかしたことない…?いや、何かあるはず、と付き合ってから今日までの1カ月の記憶を探っても特に恋人らしい事をした記憶がない。
世間一般の恋人って付き合って1カ月くらいでデートとかキスとかしないのか…?うーんと頭を悩ませながら歩いていると肩を叩かれた。

「なあ、聞いとる?どないしたん?」
話を聞いていない俺に気づいたのか白石が顔を近づけてこちらの顔を覗き込んでくる。綺麗で整った顔が急に近づいてくるのでびっくりして変な声出た、そうだった隣におるやん。
道のど真ん中で立ち止まり今度は俺の正面に立つ白石。遠くで微かに蝉と蟋蟀の鳴き声が聞こえてくるくらい辺りはびっくりするくらい静かで、その空間には不釣り合いな白石の声が俺の耳に良く響く。
「悩み事なら聞くで、な?話してくれへん?」
告白してきたあの日と同じ目。真剣に思ってくれてるってことはわかるでもそんな大層な悩みじゃないんだけど、と申し訳なく思いながら一応話す。



「…ぷっ、っあはは!!あかん、あかん、まって、っはは!」
真剣な表情から一変し、口に手を当て苦しそうに笑う白石。そんなに笑う要素あったか?笑いのツボがよくわからないしなんか失礼だな、とムッとしていたら
「えらい難しい顔しとったらから心配してたんやけどなぁ、杞憂みたいやったわ」と呼吸を整え一言。「だからってそんな笑うか?…もーええわ、俺先帰るし!」白石を置いて早歩きで帰り始める、だって俺結構気にしてたのに。いじけていると腕を掴まれこっち向いてと言われたので渋々振り向いた。すると、ちゅ。ほっぺに何か当たった。柔らかくて暖かくて保湿しっかりしてる唇…?
気づいた時には俺の顔は茹で蛸みたいに真っ赤で頭から湯気が出る程だったと思う、口をパクパクさせてたし肩に下げてたバッグはずり落ちて地面に落ちてた。

「恋人心配させたお詫びや。ほんなら今度は一緒にデートしようや、な?名前」
「人見てたらどうすんだよ、ばか、あほ」
「ええやん、見せつけとき」

落とした鞄を拾い上げたあと、俺の手を強引に掴み恋人繋ぎしてきた白石とそれを振り払おうとすると俺の手。しかし白石が解けないようのさらに強く握るので諦めてそのまま帰った。









今日は約束の日、カレンダーには今日の日付けにデートと大きく丸をつけてあった。そして着ていく服も昨日バッチリ用意していた。しかし最悪な事に、外は雨の音が響く。窓ガラスについた水滴を眺めながらぶら下げてある不恰好な2つのてるてる坊主に目をやる。昨日頑張って作った白石と俺にそっくりなそれ。てるてる坊主さえ2人一緒にいるのに俺らときたら…まるで織姫と彦星みたいだと思うけど俺らどっちとも彦星だった。

雨の音が響く部屋に電話が鳴る音が新しく響きだす。もちろんかけてきたのは白石で…


「アカン、失敗したわ…天気予報では朝には晴れるはずやったんに…すまん、大外れするとは思っとらんかったわ…どないする?」
電話越し、白石の申し訳無さと悔しさが入り混じった声が聞こえてくる。そう、このデート白石が全部俺に任せてやと言うのでプランも全て任せたのだ。パーフェクトなデート楽しみにしとってやと言ってたのを思い浮かべる。
今回に関しては白石は悪くないし俺は特に気にしてないと言うのだが白石はそうはいかないらしく、それでは気が済まないらしい。じゃあどうするか、という話になった。
「あー…じゃあ、さ…お家デート、ってのは、どう?」



「お邪魔します」
そう言って俺の家に入ってくる白石。互いに緊張してるのか若干口数が少なくなるし、手が触れるだけでも気まずくなる。…初めてのデートでお家デートはなんだかハードル高かったか…?親は仕事で帰ってくるのは夜中、家には2人しか居ない。多分それも相まって緊張してるんだろうけど…
とりあえず俺の部屋に入ると物珍しそうに俺の部屋を見渡す白石を横目に俺はお茶を出す為一旦部屋を出た。急な予定変更により俺も白石も特にお家デートですることを考えていなかったのでこれから何をしようかと悩みながら冷蔵庫を開く。紅茶か麦茶かルイボスティーかでしばらく悩む、うーん…。

俺の独断と偏見によりルイボスティーに決めた。味は結構独特で慣れるまで不思議な味だけど白石もきっと家で飲んでそうだし、まあ大丈夫だろ。
コップに注いだ後適当なお盆に乗せ部屋へ向かう。部屋に入るとちょこんとクッションの上に座りそわそわして部屋を見渡している白石が居た。それにしても妙に緊張している白石がとても不思議に感じる、だってこういうのリードしてくれるのはいつも彼だったから。

「お待たせ、持ってきた」
そう言って机にお茶を置き、俺も隣にちょこんと座るとやはり様子が気になるので質問することに「白石、今日どうしたん?」そう聞くと「すまん、…名前の家に居るって考えたらすごく、えっと、緊張して…」と予想外の反応が返ってきた。でもこんな調子じゃせっかくのお家デートがただ家に居るだけで終わってしまう、と思った俺は最終手段に出ようと決心する。

まず、隣に居る白石に寄りかかる。すると驚いた表情でこちらを見てくるので空かさず腕を絡めて…

へ?
急に俺の首元に顔を乗せぎゅっと抱きしめてくるもんだからびっくりした、首に髪の毛が当たってくすぐったいから身をよじるけど抱きしめる腕は全然離れなくて、しばらくその状態でいた。
すると耳元に甘ったるい声が響く。
「あんな、ほんま今余裕あらへんの。せやから、煽るの禁止…」

と顔を上げた白石が今にも飛びついて来そうなくらい余裕が無さそうな顔で見つめてくる

思っていた展開と全然違う事が起き始めている。まって、違うじゃん。初めてのお家デートってこう、映画見たり一緒にゲームしたりするやつなのでは?この展開は何回かデートした後でしょ?
と思うけどどんどん白石ペースに乗せられ髪、鼻、頬といたる所にキスを落とされる。
嫌やったら思いっきし抵抗してな。と優しく囁く白石が愛おしくて、もうどうにでもなれとやけくそに唇にキスをする。

俺からされると思っていなかったのだろう、一瞬動きが止まった。でも次の瞬間俺は床に倒れていて
「っ…それ、期待してええ、って事で捉えるで?」

やっぱり恥ずかしくてその熱を帯びた目から逃げるように顔を逸らすがそれも許してくれそうになく、両手で正面に顔を固定された。噛みつくようなキスとともに俺はそのまま身を委ねた。

雨の音が聞こえなくなった頃には俺らは1つのベッドで寝ていた。おやすみ。




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