小説 | ナノ

「なあ、名前くん次の移動教室一緒に行こうや」


授業後、授業中に寝て怒られていた友人の面倒を見(ノートを見せ)ながら次の授業の準備をして駄弁っていたら白石が声をかけてきた。相変わらず準備が早いな、と感心しつつどうしようかと時計に目をやる。友人が書き写すまで時間がかかりそうだし一緒に行くことに決めた。
とりあえずん、了解。と返事をし友人との会話を切り上げて理科U教室へと足を運ぶ。




「あー、俺も次の授業寝そうだわ、今日の天気と気温といい眠くなるしなぁ」
外は雲ひとつない快晴、窓から吹く風は心地よく、先生の声も相まって俺の眠気はピークを迎えていた。くぁーと欠伸をし、うとうとしながら廊下を歩く。
「さっきの授業もうとうとしとったしなぁ、そもそも名前は夜更かしとるから眠いんとちゃう?」
……実際に昨日は新作のゲームを深夜までやりこんでいた。まるで見透かされたように指摘されされうっ、と反応を示せば
「はは、図星やな」
笑いながら夜更かしは健康に悪いからはよ寝るんやでー、と白石におかんみたいな注意をされる。


そうやって歩きながら色々白石と話すも俺は別の事を考えていた。
それはなんとなく、多分気のせいだと思うのだが、友達と話してる途中で白石が話しかけてくることが多い気がするということ。もしかしたらタイミングの問題なのかもしれないが……いやそれにしても話終わるまで待つとかの躊躇さえしないので毎度何となく気まずい雰囲気になるのが心苦しい。
いやまあ俺はそれほど気にしないのでいいのだが苦笑いする友人を見ると俺の中の良心が少し痛む。しかし、かつてあいつらがしてきた行いを考えれば俺も白石も全く気にする必要などはないのかもしれない。当時俺が白石苦手にしてたのを知った上で悪ふざけをさせたことは未だに根に持っている。でもなぁ、と思いながらはぁ……と溜息をつけば隣にいる白石が会話を止めどうしたん?と心配そうにこちらを見つめてくる。
とりあえずこの事はまた今度聞こうと思い俺はなんでもないよ、と笑ってそのまま何事もなかったように会話を再開する。

白石も悪気があってやってる訳でもないだろう。わざわざ人の会話を分断する理由も思いつかないし。
そう真剣に考えることでも無い、そう思い俺は考えることをやめた。





まぁ、それはさておき本当不思議な事に俺は白石と仲良くなることができた。

本当に仲良くなるだなんて微塵も考えたことなんてなかったからこんなこともあるんだなって。あんなに苦手で嫌いだった白石と普通に話せるようになれたのは奇跡に近いと思う。以前は嫌いな気持ちが先行するあまり意識すればするほど嫌いな部分ばかりに注目してしまっていた。良い事をしている姿さえ偽善者だと心の中で罵り、嘲笑ってきた自分がいかに幼稚で浅ましい人間だったのかを冷静になった今ようやく自覚した。
心に余裕ができた今となっては彼の人の良さや賢さ面白さ優しさなど良いところをちゃんと認めることができ、心にのさばっていた嫉妬心、嫌悪感などの負の感情は日々の中で薄れて消えていった。

こうやって良好な関係が築けるようになった今、俺には一つ不満点があった。
それは周りがあの告白の騒動以来変わらず俺らをカップルとして揶揄う事だ。最近になって2人で行動することが多くなった事も相まってか普通に仲良くしてるだけで冷やかされるのはあまり気分が良くない、というか冗談だとしてもカップルだと言われる事自体嫌なのだ。
俺は白石に恋愛的な感情は一切ない。それはきっと白石も同じだろう。

最初から普通に友達として、知り合えていたら良かったのに。そう思わずにはいられなかった。









「なぁ、白石〜……、ここ教えてくれん?あの先生の授業ぜーんぜん分からへんのやけど」

午前の授業が終わり、待ちに待ったお昼休み。俺は苦手な科学の授業について教えてもらう為白石の元へ訪れる。
白石は俺を見てクスッと笑い目の前の席の椅子を引っ張り俺の側に。どこがわからんの?と優しく問いかけてきた。教科書を開いてここ、とさせば白石はわかりやすく、且つ丁寧に考え方、解き方を教えてくれる。馬鹿な俺でもわかるように懇切丁寧に説明をしてくれる彼に俺は頭が上がらない。わからないところを聞けば嫌な顔一つせず教えてくれる白石はまるで救世主だ。

「あと、さ……再来週の期末マジでやばくて……その、勉強一緒にして欲しいんやけど、いい?」
勉強に関して白石におんぶに抱っこの状態になってしまい本当に申し訳ないと思いつつ、俺はテスト、成績のため白石にまた勉強を見てもらおうと手を合わせてお願いをする。
「あぁ範囲広いしなぁ、もちろんええで。じゃあ……、名前んちでやってもええ?俺ん家家族うるさくてなぁ。」
表情を曇らす事なく快諾してくれた白石には本当に頭が上がらない。

「ぜんぜん!!俺は教えてもらう側だし家の提供くらいなら喜んで!ほんといつもごめんな、白石だって忙しいのに……」

「気にせんで、俺が好きでやってる事やし。それに人に説明すると自分の復習にもなるしなぁ」

「へへ、本当ありがとうな。頼りになるよ」
そう言い俺らは今週末に勉強会の予定を立てることに。持っていくもの、待ち合わせ場所、時間。久しぶりに友人を家に招き入れる事を考えるだけでこんなに楽しいとは思わなかった。そうやって俺は来たる週末に胸を弾ませながら過ごした。





約束の日、俺は駅前で白石と待ち合わせをした。待ち合わせの時間自体は9:45分だったが待たせまいと40分に来たものの、白石は既に着いて居たらしく驚いた。待たせた?と聞けばいいや俺もさっききたばっかりやで、と。
「えー、にしてもくるの早いよな。そんな俺に早く会いたかったん?」といじれば「そうやけど?」と平然と言ってのけるのでばか、ボケを生殺しするなと白石を肘でつつく。この男はこういうとこがあるのがまたずるい。





「お邪魔しまーす」
「へぇ、案外広いんやな」

俺の家に友人を呼ぶのはいつぶりか。少しソワソワしつつ白石を俺の部屋に呼ぶ。
昨日頑張って片付けたので多少は綺麗になった筈、だが根本的に物が多くごちゃごちゃした俺の部屋を見て白石は名前らしい部屋やな、と笑う。
確かに白石の部屋って無駄な物なさそうだよな。容易に想像できる。無駄のない部屋はさぞかし綺麗なのだろう。
今度は白石んちに遊びに行きたいと言えば彼はもちろん、と返してくれた。
部屋の片付け方でも教わろうかな、と思いつつ今日の目的である勉強会の準備をする。



「じゃ、まずはこの前の復習からやな。まず……」







「……ん、全問正解やな。お疲れさん」
とりあえず範囲になっている分野の問題も解き終わり一区切りを迎えた。ぶっ通しで勉強していた事もあり肉体的にも精神的にも疲労を迎えた俺は机の上に開かれた問題集の上に突っ伏す。

「あー、疲れたぁ……んーとりあえず一旦お茶しようや、俺お茶入れてくるから待っとって」
疲れた体を動かし、キッチンへ向かうため立ち上がった。白石に来てもらってる以上俺はおもてなししなくてはいけない。

「気にせんでええんに「いやいや、感謝の気持ちだから。こういうのはな、ちゃんとしとかないと。」
「……ほな、甘えさせてもらうわ。よろしく」
まあ、ゆっくり寛いどいてと俺は部屋を出てキッチンへ向かう。何かあったかな、と見てみると冷蔵庫には『お友達と食べてね』と書かれたメモとともにマカロンが入っていた。
気をきかせてくれた親に感謝しつつ冷やしていたお茶と一緒に載せて持っていく。
「お待たせー、って、何してるんだ?」
部屋に入って目についたのは白石が俺の部屋の本棚を覗いてる姿だった。
俺はひとまずテーブルにお茶とマカロンを置き白石の所へ近づく。
んー、いやらしい本とか隠してないかな、って冗談めかして笑うから
あってもそんな場所には隠さへんわ!と思わずツッコんでしまった。


そこからお昼ご飯を一緒に食べたり、息抜きにゲームしてお互いに笑って、楽しい時間を過ごした。授業の時間は永遠のように感じるが、今日の勉強会の終わりはあっという間に来てしまった。


「本当に見送らなくていいの?」
「俺なら大丈夫やって、名前も今日はゆっくり休み?」
そう言って白石は靴を履き、荷物を持ってドアを開けた。
「今日はありがとう。じゃあ、また明日」
学校で、そう言い俺は白石が出て行く姿をを見送った。静まった部屋を眺めつつ、今日一日を振り返りながら部屋を片付けた。











『……………ん、これでよし』

耳元から流れる音に耳を傾けつつ通知の届いたスマホを覗く。
どうやらちゃんと音声は入るようだ。音質は心許ないが大した問題では無い。

「今日は勉強に付き合ってくれてありがとう。明日お礼のお菓子持ってくわ!」
可愛らしいスタンプとともに送られたメッセージ。
「こちらこそ、今日は楽しかったわ。また今度わからんとこあったら聞いてな?」
そう返信し画面を切り替えいつものsnsのチェックへ。

何が俺をここまで動かしているのだろうか。自分でも理解できない感情が胸の奥でチリチリと微かに熱を帯びながら燻っている。お前の何気ない一挙手一投足さえもが俺の中に潜む感情を一歩一歩、着実に引き摺り出し始めている。

自分が変えられてしまったのか、それともこれが俺の本性なのか。理解できない感情が俺の中でとぐろを巻きながら、次第に膨れ上がる。



なぁ、教えてや。俺の知らないこと全部。





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