小説 | ナノ





 ちょっと話そう、と言う話になり立話もなんなので俺たち二人はちょっとお茶をすることに。朝はどんより真っ黒だったあの空も今は雲間から光が差し込むほどに明るく晴れていた。

学校から少し離れた場所へ白石に連れられ訪れたお店は何処か映画の世界に入り込んだような雰囲気で、俺は思わずその場で立ち止まってしまった。アンティークの調度品、店を彩る多種多様の植物、明るすぎず暗すぎない程度の照明、どこを見渡してもおしゃれと言いたくなるような内装。普段行くようなお店と違う雰囲気に圧倒され、俺は多少の緊張を抱えつつも白石の後ろを歩いた。最近できたばかりのお店で客こそ少ないが雰囲気が良く、ここの紅茶は香りも味も良いからよく通ってる、と白石は語った。確かに、このお店の落ち着いた雰囲気は俺も好きかもしれない。



そして白石お気に入りの窓際の日の差し込む席へ腰を下ろしたあとさっき聞いた紅茶とお菓子を頼み、会話が始まる。最初は緊張のせいか二人ともぎこちない感じで、会話もままならないような状態だったけど、話し始めていくうちにだんだんと緊張も抜けて話せるようになった。
ああ、俺が白石に抱いていた嫉妬という感情はこんなちっぽけなものだったのか。
俺の知らないうちに羨望の念のうちにある僅かな嫉妬心が見かけだけ膨れ上がった錯覚に陥っていただけで、何でもないものだった事に気付かされる。今思えば俺が白石を嫌う理由なんて無かったのに何であんなに毛嫌いしていたのか、不思議になる。




テーブルに置かれた紅茶に角砂糖を入れ、くるくる回す。甘党の俺は紅茶をストレートでは飲めないから砂糖は多めが好きだ。(なんなら普通の紅茶より砂糖たっぷりのホットミルクティーの方が好きだったりする)
そうやってあちちと舌をやけどした俺を横目に見て少し笑う白石はそっと俺に尋ねた。


「何で、なんであの時話しかけに来たん?俺の事なんて無視すれば良かったやろ」
紅茶を眺めながら目を伏せる彼を俺は見つめる。俺は何と返事をすれば良いのかわからなかった。白石も俺が内心白石を苦手としていた事は気づいていただろう。俺はその場の勢いで話しかけたが結局あれは

「強いて言うなら、俺の自己満足……かな」
特に理由なんて無い。きっと迷惑かけた分の行為を清算をしようとしてるだけの偽善だったから。そして白石に断られても休むよう言ったのも俺が恥をかかない為の自己保身であって褒められる様な行為では無いのだ。だから俺はお礼を言われる筋合いなど無い。実際俺が話しかけた時、白石迷惑そうな顔してたし。

「それでもええやん、行動せんより」

「俺は実際苗字のおかげで途中倒れたりせず済んだ、そうやろ?」

改めてお礼させてもらうわ、ありがとう。
そう言って優しく笑いかける白石を見ると少しだけ、少しだけど心が軽くなった。



「せやけど、俺もまだまだやなぁ」
ケーキを口に運びながら白石を見つめる。甘いクリームの味と酸味のいちごが効いて美味しい。もう一口口に頬張れば白石は続きを話した。
「まさか体調不良がバレるなんて思ってなかったんよ。ちゃんと隠してたつもりやったけどまさか気付かれるとは」ははは、と眉を下げて苦笑いしている白石になぜ体調不良を隠してたのか理由を尋ねる。うーん、と一度沈黙した後口を開いた。
「だって自分の弱さ見せるのなんてダサいやろ」
まあ、全部バレてもうたけど

そう言われてからそういえば白石はいつも笑顔で誰かに助けを求めたり体調崩してるのを見たことがないのに気づく。彼は、辛くないのだろうか。俺と同じ年齢のはずなのにたった1人で重い物を背負っている気がする。
大変じゃないのか、と尋ねればもう慣れた。と笑って言い返した。それで俺は何か考えるより先に咄嗟に言葉を呟いてしまったのだ。

「……じゃ、じゃあ、俺が白石の相談相手になるから、さ。もう今日みたいに1人で抱え込むなよ」


店の音楽だけがお店に響く。白石は飲もうとカップにかけた手を止めこちらを見つめパチパチ瞬きを繰り返す。


「っ、ははは!何やそれ」
口を押さえ笑いを堪える白石の姿を見て正気に戻った。自分でももう何言ってるんだろうかと頭が混乱する。一度自分の言ったことを思い出したら恥ずかしすぎてカーっと耳まで熱くなるような感覚に陥る。
「だ、だから…白石の、頼れる…友達になるというか、弱音を吐き出せる人間になるって…」ごにょごにょ……と口ごもりながらしどろもどろに小っ恥ずかしい言葉が溢れ出る。こんな小っ恥ずかしい事を言いたい訳じゃないのに。何か弁解しようとしても頭が真っ白でもう何を言えばいいかわからない。俺は口をつぐんで、ただ今の真っ赤な俺の顔を見られない様に俺は自分の膝を見つめ続ける。
白石は、どう思ってるのか今の俺にその顔を見るだけの元気はなかったが口から抑えていた空気が漏れる様な音がして余計恥ずかしい。

「あはは!!やっぱ迷惑やったよな!!やっぱりさっきの言葉は忘れて……」
あまりの恥ずかしさに全て冗談ということにして済ませてしまおうと思った。もともとこんな馬鹿みたいな内容、白石だってこんなの迷惑に……


「ううん、全然迷惑なんてあらへんで。そう言ってもらえて俺も嬉しいわ」


「ほなこれからは、友達としてよろしくな。」

「名前」

そう呼ばれる自分の名前。正面を向けば白石は楽しそうに微笑んだ。


「あの時、気づいてくれて本当は嬉しかったんやで」

「ありがとう」

素直にそう言う彼の顔は純粋に綺麗だったんだ。







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