小説 | ナノ

……なんでこんな面倒事に付き合わされてるんだろうか、俺。


自分の友人関係を一度改める必要性があるな。とげっそりしながら空を見る。憎いくらい晴れ渡った青い空が眩しかった。


「おーい、白石。苗字が用事あるって。」

 ほら、決めてき。バシッと叩かれた背中と共に俺は白石の前へ立ち尽くす、本当にこれしなきゃダメなのか。と目線を送る。が、友人はサムズアップしただけでやはり撤退をさせてくれる気配は無い。その傍ら、何も知らない白石はキョトン、とした表情のまま俺の発言を待っている。待たせているという申し訳なさを感じつつ、あまり会話したくないという気持ちがぐるぐると胸の中で混ざりながらのさばっていく。

が、逃げられないのなら俺も腹を括るしか無い。何、一回ちょーっと自分の恥を捨てて一言言うだけだ。何も死ねとか言うわけじゃ無いし、告白くらいならこの学校だってユウジが毎回小春に告白してるし……まあネタの一環として昇華される、はずや。……たぶん。




「し、らいしの事が……好きです付き合ってください」
意を決して出た言葉はなんの抑揚も無ければ感情もこもっていやしない単調な音として飛び出した。自分でもこの告白がいかに無駄であるか理解できる。こんな嘘丸見えの告白をして、この後どうやってオチをつけるか俺はなにも考えていなかった。1人ポツンと取り残された様なこの空間内で、冷えた空気が教室一体を支配する。

し、しんどい。告白された当の本人である白石はポカン、と目を丸くし瞬きをする。そりゃ困るよな、誰だって。特に仲の良くない同性から教室のど真ん中で告白されたら何事かと思います。

そんな汗だらだらで狼狽る俺に救いの声が、

「それ、ほんまなん?」
怪訝な表情をし、この空気の中声を出した白石に俺は思わずありがとうと告げてしまいたくなる。そうです、違うんです。この告白嘘なんです。俺罰ゲームで告白させられただけなんです。そう告げようと俺の口から紡いだ言葉は次の瞬間かき消された。


「嬉しいわ、苗字くん。」

 
ん?…………え?今何て?


俺の声に被せられたその声は紛れも無く白石の声で、俺の聞き間違いでなければまるで俺の告白を肯定する様な返事がしたのだが。これは夢か、幻か。願わくば夢であってほしい。しかし、白石はさっきまでの表情と打って変わってにこり、と笑みを浮かべてこちらを見てくる。さっきまでの表情は一体なんだったのか。
今の状況を飲み込めない俺を置いて時間は刻々と進んでいく。あんなに静かだった教室に笑いの海が広がり、わはは、いいぞいいぞー!と野次馬やら揶揄う声、女子の悲鳴が飛び交い一気にお祭りムードへ。


「これからよろしくな。」
差し出された手を見つめ、とりあえず手を出せばギュッと強く固く握られる。ベタついた俺の手とくっつく白石の手は硬く、大きかった。離せないこの手と白石の顔を交互に見ながら俺は静かに思考をする事をやめた。え、っと……とりあえずこれは高度なボケ返しなのか。嫌がらせなのか。本気なのか教えてくれ白石くん。しばらくぼーっと何もかも受け入れられず立ち尽くす俺の記憶に残ったのは白石が薄ら笑いを浮かべているその表情だけだった。



 問題はここから始まった。

それから始まったのはネタにされていじられる日々で、何かをする度俺は白石と組む事になる羽目に。その度女子の視線が妙に痛くてストレスで胃に穴が開きそうだ。ただでさえ白石に苦手意識があるのにその上こうやって一緒に過ごすことがどれだけ疲れるかきっと周りの奴らは知らないし、白石も知らないんだと思う。でもあくまで俺から告白して白石を巻き込んだのにあからさまに嫌な顔をして過ごすわけにもいかない。
それ故に波風を立てない程度に否定しつつ笑いながら過ごす毎日が続く。いい加減やめてほしいと思っても、この関係さえもお笑いに変える彼のポテンシャル、ムードメーカー的立ち位置もあり俺の否定行為さえ俺の持ちネタと定着し始めた。

でも白石にとって迷惑に変わりないだろう。白石だってこんな俺みたいな男と付き合ってる設定だなんて可哀想にも程がある。せめてもっとイケメンとか、美形だったらな。ぐるぐるとノートの端に落書きしながら先生の長い話を右から左へ聞き流し、ぼんやりそんなことを考えていた。
周りはうとうと船を漕いでる奴や、机に伏して寝てる奴もいるけど白石は真面目そうに先生の話を聞きながらノートを取ってた。そんな背中を見つめながら俺は端の落書きを消し、先生の方を向く。

結局白石が何を思ってるか、俺にはわからない。





×
- ナノ -