追憶


 白衣。大好きな彼の匂いがするそれに、溺れてしまいたい――。

「…い、……ろ……き…」

 誰かが私の体を揺らす。朦朧としていた意識が、だんだんと覚醒していく。

「ん、おか、さん?」
「俺は、なまえのお母さんじゃないぞ。」
「え、えっ?あ!こ、琥太郎先生?!え、ちょ、何で?」

 今の今まで自分の家にいるものだと思っていたが、そうではないようだ。

「覚えて、ないのか?」

 私が今分かっていることは、ここに琥太郎先生がいること。それとさっきも言ったように、ここが私の家じゃないこと、保健室でもないのは確実だ。それとベッドの上にいること、そして白衣の山に埋もれていること。白衣からは琥太郎先生の匂いもする。

 記憶が曖昧なせいで、どういう成り行きでこの状態になったのかが、さっぱり分からない。

「すいません、全然覚えてないです…。えと、ここはどこですか?」
「ここは俺の家だ。もうすぐテスト期間だから、なまえが勉強を教えてほしいと頼み込んできたんだ。正直めんどくさかったけど、仕方ないから俺の家でやることにして…、ああ、もう面倒だ。そのな、俺が風呂に入って出てきたらこの状況だったんだ。」

 呆れたように琥太郎先生は言う。琥太郎先生の言うこの状況は、私が白衣に包まって寝ていたことを言っているんだろう。

「何と言うか、ごめんなさい」
「きっとなまえも疲れてるんだろう。今日は勉強は止めといて、寝るか?」

 確かに疲れているのも事実だったので私が頷くと、琥太郎先生はクローゼットを物色し始める。
 私が小首をかしげると「制服で寝たらしわになるだろ」と言った。
 確かにそうだ。今まで制服で寝ていたので、既に手遅れかもしれないが、これ以上しわをつけたら大変だ。
 だけど、それってもしかして、こここ琥太郎先生の服を貸してくれるってことで…、先生の服を着れるってことで。

 どうしよう。幸せすぎて死ねる。

「これ、どうだ?多分これが一番小さいと思うんだけど。」
「着させていただきます!」
「おい、待て。あのな、俺も男なんだから俺が出るまでは着替えるなよ」

 恥ずかしい、と柄にもなく琥太郎先生が赤面しながら言う。先生が、私のことを一人の女の子として見てくれてることが嬉しくて、なんだか…こそばゆい。

「じゃあ、すぐに着替えるのでちょっと待っててください。あ、別に私はあんまりそういうの気にしないタイプなので、ここにいてもいいですよ、センセ。」

 私が気にしなくても、やはり琥太郎先生は(しっかりしてる分)気にするようで、廊下に行ってしまった。こういう琥太郎先生のかわいい所が大好きということは、今はまだ言わないでおこう。

「着れましたよー!」

服を着て、廊下でお待ちしてもらっていた琥太郎先生を呼び戻す。

「うへへ、ダボダボうへへ!」
「あー、やっぱり大きかったな。ま、この程度なら大丈夫だろう。」

 私の不可解な一言を見事にスルーした琥太郎先生の顔は、ほんのりと赤い気がする。

 琥太郎先生の服からした香りをかいだその刹那、私の脳内である情景がフラッシュバックした。

「…っ!」
「どうした?」
「思いだしました…。」

 琥太郎先生は、何がなんだか分からないという表情をしている。それはそうだろう。
 私自身もすごく驚いている。思い出したことは今思うとどうでもいいことだ、きっと。それなのに、過剰な反応をしてしまった。後悔はしている。

「私、琥太郎先生の白衣に溺れ…埋まってた理由を思い出しました」
「あ、ああ。で、結局何でだったんだ?」

 それなのに、琥太郎先生は優しいからちゃんと構ってくる。いいね、琥太郎先生のそういう優しい所大すき!
 おっと、話が逸れたね。
 そう、私はついに思い出したのだ。この今の状況を作り出した発端を。

「琥太郎先生のベッドに琥太郎先生の白衣があって、私なんだか興ふ…テンション上がって、我慢しきれなくなって飛びこみました。」

 苦笑い。琥太郎先生の反応は、まさにそれだった。

「まあお前は、初めて会った時からそんなんだったもんな」
「あれ、そうでしたっけ?」

 あまり記憶にないが、昔から私が変なやつだったのは間違いないから、琥太郎先生の言ってることはあながち間違いではないのだろう。

「覚えてないのか。これは質が悪いな」

 琥太郎先生は困ったような、昔を懐かしんでいるような表情で微笑んだ。



追憶、君との記憶




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琥太郎先生お誕生日おめでとうございます!
余裕を持って半月前から書きはじめたのに、書きおわったのがつい最近でごめんなさい。
愛はこもってます、愛は

これが好評だったら、これの続編てか過去編を書きたいな!←
ネタをいろいろ考えてたりするんだよね、実は(*´ω`*)

この小説を持ち帰りたい方は、拍手やらなんやらで「琥太郎先生はあたいが頂いた!」的なことを一言を言ってくれるとありがたいです!
とか言ってるけど、実は今年いっぱいフリー配布します。無断でも全然構いません。フリー、ですからね!
一言くれると励みになります\(^o^)/

これからも、琥太郎先生とついでにこのサイトもよろしくお願いします!全ての琥太郎先生ファンに幸あれ!


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