これが、恋?
―― コンコン。
「琥太郎先生、入りますよ」
保健室の扉を軽くノックして室内に入ると、案の定目的の人物は眠っているようだ。起きてくださいと声をかけながら彼を揺さぶると、まだ眠たくて不機嫌だというオーラを明白に醸し出す琥太郎が顔をあげる。
「何だなまえ、俺に何か用か」
何か用か、ではない。琥太郎は、自分の睡眠の時間を取られて嫌なのかもしれないが、私だって勉強がある所をわざわざ来ているのだ。それに呼び出したのは琥太郎先生じゃないかと内心で文句を呟きつつも、いつも通りの笑顔でこちらからも用を聞く。
「琥太郎先生が私を呼んだんですよ。先生、私に何か用があったんじゃないですか?」
そう問われ自分が呼び出したことをやっと思い出したようで、琥太郎はちょっと待っててくれと書類を掻き分け何かを探す。
その間、私は近くのソファーに腰掛けて待った。暫くそのまま待っていると、琥太郎先生はたくさんのプリントを抱えてこちらに来た。
「毎度悪いが、この資料を各クラスに配っておいてくれないか」
いつものような業務連絡。他の人に頼まれたなら嫌気がさすのだが、琥太郎先生に頼まれる仕事は嫌ではない。
分かりました、と資料を受け取る。
「ああ、あとお前の淹れたまずい茶が飲みたい。」
相変わらず一言余分な琥太郎の台詞を軽く流し、お茶を淹れるなまえ。
「はい、琥太郎先生どうぞ。」
ありがとなと琥太郎はお礼を述べ、差し出されたお茶を啜る。一口飲みまずいと呟き、またお茶を口に運ぶ。
「まずいんじゃないです、渋いんです。」
俺はそういうお前の茶が好きなんだ、と拗ねるなまえに告げる。途端なまえの胸が高鳴る。琥太郎先生に聞こえてるんじゃないかと思う程、ばくばくと鳴っている。
琥太郎の何気ない一言に混じっていた、好きという単語。その言葉がなまえの心臓を鷲掴んだのは明白だ。
最近の私は何かがおかしい。なまえがそう思うほどには、琥太郎の一言や動作が気にかかっている。前まではこんなことはなかったのに。
「琥太郎先生、」
今の自分が何なのか、さっぱりわからなくなってしまったなまえは、その答えを琥太郎に問う。
「私、最近先生のこと考えると胸がこう…どきどきして、きゅんとして…苦しいんです。辛いんです。」
なまえにとって初めての経験だったので、どう表現をすればいいかわからない。そんな中、必死に言葉を繋げ何ででしょうかと問う。
それを聞いた琥太郎は驚いた顔をして、そして困ったように微笑む。
「ひょっとして私、いけないこと聞いちゃいましたか?もしそうだったら、ごめんなさい。」
素直に謝るなまえを見た琥太郎は、大丈夫だと優しく微笑む。
「俺もだ、俺もなまえと同じ気持ちだ。」
そうなんですか!と嬉しそうにはにかむなまえ。どうすれば直るのか、と琥太郎に問う。琥太郎はまた、困ったように言う。
「それが、俺にも分からないんだよな。不治の病なんだ。」
それは、恋という名の不治の病。
これが、恋?
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提出先企画サイト : 夢ものがたり
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました。
「これが、恋?」というお題で恋を知らない女の子と琥太郎先生のお話を書かせて頂きました。
まだまだ未熟な文章ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
本当に、ありがとうございました。
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