桃色ケンカ
「はあ…。もう、幸せそうで何よりだよ」
「ふふっ、羨ましいでしょ?」
部活が始まる前の時間で、犬飼先輩に惚気話を聞かせている。
別に聞かれたとかそういう訳ではないが「最近木ノ瀬とはどうなんだ?」って言われては、答えなくちゃいけないだろう。きっと。
私たちのラブラブさを理解してもらうには、これが一番てっとり早い。だから、時間と労力をかけ、長々と話してあげたのだ。
「お、犬飼とみょうじじゃねぇか!お前ら早ぇなっ、何の話して…」
「さー、そろそろ部活の準備するかー!」
私と犬飼先輩が何の話をしているのか聞こうとする白鳥先輩の言葉を遮って、逃げようとする犬飼先輩。
きっと、また私が惚気話を話しだすと思ったんだろう。まあ、あながち間違っていないのだが。
だが、聞いたからには逃がす気はさらさらない。後から捕まえて、話そう。
「そうだね、今は準備しようか」
「おっ、今はということは後から聞けんだな!」
この後待っている地獄(自分で言うのもなんだが。)を知らない白鳥くんは、嬉しそうに私の言葉を受け取る。
そんな白鳥先輩を見て、"人生の終わり"という題がよく合いそうな顔をしている犬飼先輩。
準備をしているうちに、他の部員達もぞくぞくと集まってきた。もちろん、大好きな梓も。
今日の部活では、梓はずっと月子先輩の射形ばかり褒めていた。梓は素直に、月子先輩の射形が好きでこの弓道部に入ったので、いつもは気にしないようにはしているが、ちょっと妬ける。
確かに月子ちゃんの射形はきれいだけど、私だって月子ちゃんに負けないくらい努力もしているつもりだし、努力の成果も出ている。
その証拠に今までアドバイスをしてくれる位置にいた宮地くんにも、たくさん褒めてくれている。
(なのに梓は…。なんだか寂しいな……)
考えながら部活に取り組んでいたせいだろうか。気付かないうちに部活は終わっていて、一緒に梓と帰っていた。
「お疲れ様、梓」
「なまえもお疲れ様です」
なんだか今日の梓は素っ気ない。部活の時からだ。
――何か怒らせるようなことをしただろうか。
素っ気ない理由は、梓が怒っているからだと考えた私は、最近の事を思い出してみる。思い出してはみるものの、なかなか心当たりが見当たらない。
分からないものをいつまでも考えていても無駄なので、梓に問う。
「梓、何か怒ってる?」
「怒ってなんかないですよ」
「怒ってるよね」
いくらなんでも、いつもと態度が違いすぎる。まず、私と目を合わせてくれない時点でおかしい。
「ごめん」
謝ったもの、当の彼からは何の反応もない。
「あたしが何かしたなら謝るから…」
「なまえは何も悪くないです」
「え…?」
梓の言った言葉の意味が理解できず、私は聞き返す。
「なまえが他の男と話しているだけでイライラして、なまえを見ないフリをして、先輩にばかり絡んでいた自分の器の小ささにイライラしてるんです。なまえは何も悪くはありません」
「他の男…?」
「犬飼先輩と白鳥先輩」
「あ、あぁ」
それって、ひょっとして、梓は嫉妬していてくれたんだろうか。私が月子ちゃんにしたように、犬飼先輩と白鳥先輩に嫉妬していてくれたのだろうか。
もしそうだったら、物凄く……。
「嬉しい、ありがと」
「ごめんね」
やきもちやき
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