敵=0 味方=1?
「先輩、大変です…」
梓くんが、いきなり深刻な顔で話し掛けてきました。
「なまえ先輩、大変です!」
「え、なんで二回繰り返したの?!」
「大事なことなので」
「は、はあ…。それで、何が大変なの?」
私が尋ねると梓くんは待ってました!という表情で理由を話しだした。
「先輩が足りないんですということでキスさせてください」
「はい、梓くんストーップ!!」
君は一息で何て事を言っているんだいそれに私が足りないの意味が理解できませんそしてなぜそれがキスに繋がるかも私には理解できませんどうせ馬鹿ですよーだ!でも梓くんきっとこれは天才であろうと理解できないと思います。
「と、言うことでもっと分かりやすく解説をお願いします」
「先輩も一息ですごいですね。僕のは言葉通りの意味です、先輩が好きだからキスさせてください」
あれ、さっきの台詞と大分意味が違ってこないか?…だああああっ、わからない。
「こんな所でキスは無理です」
好きという言葉は決して無視しているわけではない。これでも一応、梓くんと私は付き合っているのだ。
いや、無視しているといえば無視しているな。まあ、気にしないことにしよう。
こんな所でキスはするもんじゃないと私は思います。こんな所、とは弓道場である。弓道場は神聖な場所だ。そんな神聖な場所でキスをするのはどうかと思う。
それに今は休憩中だが、仮にも部活中なのだ。今の所重要です。部活中ということは、勿論まわりに部員のみんながいるわけで…。
宮地くんが物凄い形相でこっちを見ていて怖いんだ(こっちというより、梓くんを)
なんでですかー、と口を尖らせ文句を言う梓くんを全力で否定する私。悪いとは思っているが、宮地くんが怖いので全身全霊で拒否する。
「なまえ先輩は僕の事嫌い、ですか?」
すると梓くんは捨てられた子犬のような目でこちらを見てくる。場違いだが、可愛いと思ってしまう。
「嫌いじゃないよ、むしろ大好きだもん!」
「なら、キスしてもいいですよね?好きな相手からのキスを拒む理由がありませんよね!」
そう言いながら一歩、また一歩と梓くんは迫ってくる。私は梓くんから逃れることも出来ず、近くにいた犬飼くんに助けを求めようとしたが、一瞬で目をそらされました。
私の今の状況はきっと、敵はいない状態だろう。だが、同時に味方もいないにちがいない。
…訂正。敵はいるようです。宮地くんがさっきよりも凄い顔をしてこちらを睨んできます
もうダメ、か…。諦めようとした時、梓くんに胃薬が直撃する。胃薬の飛んできた方を見ると、誉部長がいた。
胃薬がお友達という噂は本当なのか、と思いながら、助けてくれた先輩に心から感謝します。(現在進行形で)
「部長、何するんですか」
「僕はなまえちゃんを助けようとしただけ、だけど?」
「そうだそうだー、やっちまえ誉先輩っ」
「なまえちゃんもちょっと黙ろうか」
「ひいっ、すみません!(先輩が怖いよう)」
正座しながら二人を眺める私。すると二人が私から若干離れて行く。私が頭の上に『?』マークを沢山浮かべていると、誉先輩が梓くんに何か囁いた。
何を言ったのかは分からないけど、梓くんが顔を真っ青にして戻って来た。
きっと誉先輩が腹黒を発動させたんだろう、ああっ怖い!…嘘ですごめんなさい、先輩は怖くないです。お願いだからそんな目でこっちを見ないでえええええ!
おっと話が逸れちゃったね。それで近づいてきた梓くんが言った一言。
「先輩が引退するまで我慢します、ごめんなさい。」
「え、何で!どうしたの梓くん!」
「聞かないで下さい先輩。」
「あ、はい。ごめんなさい。」
引退するまでキス出来ないのは私が大丈夫かも不安だけど、まあ今回逃げれるならよしとしましょうか。
梓がなまえの唇を奪うのは、まだ先の話。
prev next back