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『――――…て、本日13時頃、東京都池袋で、歩道に車が突っ込むという事故が起こりました。この事故で会社員の女性一人が死亡、他五人が骨折等の重軽傷を負いました。警察では―――……』


テレビでは今日あったことをアナウンスが淡々と読み上げている。女性一人が死亡。そうであるとは決まっていないが、それでも恐らく、その女性というのは臨也が指差した女性なのだろう。
件の臨也はテレビが珍しいのか、興味津々に見入っている。奴にとってはテレビの内容より遥かに、映像の方が面白いのかもしれない。


『俺は神様だよ。君に会いに来たんだ、平和島静雄君』


最初は馬鹿馬鹿しいと一蹴した言葉も、今となっては同じ扱いは出来ない。結局家に連れてきてしまった神様を前に、俺は途方に暮れるしかなかった。


「……あんた本当に、何しに来たんだよ」
「またその質問? 何度も言うけど理由なんて一つしかない、君に会いに来たのさ。君のことは向こうでも知ってたからね、面白そうな人間だと思って暇潰しに」


この会話も今日で通算5回目。5回同じ質問をしても臨也の口から違う返事が聞ける訳でもなく、ただの同じやりとりが不毛に続いてきただけだった。俺の方は神様だと謳うこいつに気を遣って鯛まで買ってきたというのに、得られる見返りは何も無い。もし明日もこいつがここに居座っていたら、明日からは容赦なくカップラーメンを食卓に並べてやろう。


「見返り目当てで鯛祀られてもねぇ」
「ナチュラルに人の心読んでんじゃねえよ」
「それに俺、そういう魚は好きじゃないんだ」


――神様なのにか?

喉まで出かかった言葉をしかし、俺は自分でも意識しない内にぐっと飲み込んだ。それを言うことはつまり、俺がこいつを神様だと認めてしまうことになるから。鯛だ何だと優遇してはいるが、俺はまだ心のどこかでこいつを疑っている。…というよりもただ単に、こいつが神だと納得したくなかった。
俺だって化物扱いされてはいるが一応人間で、そりゃあ人並みに神様の理想像がある訳で。そして俺の理想の神様は、あの時、あの女性を見殺しにするような奴じゃない。死ぬのが分かっているならそれを救ってくれる、ヒーローみたいな理想像。餓鬼みたいな理想像と笑うかもしれないがそれが俺の理想で、こいつを神だと受け入れることでそれを捨ててしまうのは、まだ俺には早すぎる要求だった。

言葉を渋らせた俺に臨也も何かを察したのか、スっと目を細めると笑って言った。


「死んでる魚の目っていうのはどうも苦手でね。あ、そういえば人間の、特に日本人の食文化にはスシっていうのがあるんだろう? 同じ魚を食べるならそっちがいいなぁ」
「寿司が食いてぇなら食わしてくれるとこに行け。俺はンなに金ねぇんだ、鯛で我慢しやがれ」
「静雄くんけっちー」
「黙れ」


ケラケラとよく笑う臨也につられ、こちらも笑みが零れてしまう。
そろそろ晩御飯を作らなければ。台所へ向かう前にすっかり腰を落ち着けてしまったそいつに手伝えと一言投げると、ヤだよ出来ないとぶっきらぼうに投げ返された。正体不明で、居候で、手伝いも出来ない。どうやら俺はそうとうな厄介者を連れ込んでしまったらしい。


「……自称神様だし、訳分かんねぇよな」


けれど、自分以外のいる、いつもより賑やかなこの空気も嫌いじゃない。ほんのりと優しく緩んだ口元は、本日二度目の零れた笑顔。もう暫くなら居させてやるかと思うと同時、俺は買ってきた鯛をまな板の上に置いた。








(20111119)
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