「おはよ、シズちゃん」
「おー、はよ」


俺には絶賛、好きな人がいる。好きな人というよりは愛し合ってる人って方が正しいんだけどね。俺みたいな人間にも羞恥心はあるのだから、そこは察してほしい。
 少し前までは素直になれずに喧嘩ばかりしていた俺たちだったけど、ほんのちょっとに出来事でその関係は180度変わった。話せば長くなるので何があったかは割愛するが(まあ、新羅の協力があったとだけ伝えておこう)、そのお陰で俺とシズちゃんは結ばれ、今ではすっかり恋人同士。喧嘩もたまにするけど朝は一緒に登校するし、休日にはデートだってする。


「なぁ、手前今度の日曜暇か?」
「日曜? んー、多分空いてるけど。ていうか空ける。何?」
「いや…その日俺ん家誰もいねえし……来いよ」


さっきも言った通り恋人同士なわけだからキスだってするし、その…そういうことも、する。ただいつもは流れだから、こんなふうに彼からのあからさまな誘いは初めてな訳で。そりゃあ赤面もするよね。言った本人ですら顔赤くしてるくらいだもんね、普通に恥ずかしい。

ただそういう誘いも彼からだと嫌じゃなかった。


「ん……分かった。行く…」
「お、おう…」


なんともぎこちない会話の後、特に何も話すことなく二人並んで学校へ歩んだ。顔が赤いのは、最近ほんの少しだけ冷たくなってきた風のせいだと、互いに言い訳し合いながら。







* * *





体育の時間が嫌いだった。
中学ではどちらかというと好きな部類の教科だったが、高校生になってからその気持ちは様変わりした。夏は日に焼けるし汗かくし、冬は寒くて外に出るのさえ億劫になる。

そして何より―――。


「平和島、任せた!!」
「おーよっ、と…!」

(ねえねえ、平和島君ってかっこいいよね)
(うんうん! 怒ってる時はすっごい怖いけど、よく見たら普通にかっこいいし)
(彼女とかいるのかなー…)

「…………」


シズちゃんが、モテすぎるからだ。
元々標識をぶっ壊して振り回せる程筋肉があり引き締まった体は、それはもう女子の大好物。それに加えて運動神経も人並み以上のシズちゃんは、その辺の女子を虜にするのには十分過ぎるほどの魅力と色気を振りまいているのだ。女子が黄色い歓声を上げるのにも十分頷ける。俺だって、そんな彼にときめかないと言えば嘘になるだろう。でも…でもだよ。


「…鬱陶しいなぁ」
「おい臨也! そっちボール行ったぞー!」
「真面目にとか俺やんないから。シズちゃん一人で頑張れば?」
「おいこら! てんめ…」


シズちゃんから回ってきたボールを避けて、コート外へと足を向ける。視界の隅で俺のスルーしたボールを敵チームが取るのが見えたが、そんなの俺にはどうでもいい事だった。シズちゃんの怒声も女子たちが煩く騒ぐ声も、全部全部どうでもいい。シズちゃんはどうでもよくなんてないけど、モテすぎるシズちゃんは大嫌い。死ねばいいのに。


「ああもう…イライラするなぁ」


全部この高すぎる秋空のせいだ。八つ当たりだと重々承知で空を睨み上げても、空の青がそれを吸い込むだけだった。それがまた自分の器の小ささを思い知らされたみたいで……


ああもう、本当にイラつく。







――――――――――――

もう少し続くので、お付き合い頂ければ幸いです。


(20111103)
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