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「アホか手前は」


思いがけず口をついて出たツッコミに、目の前の“自称”神様はむむっと眉を寄せた。元々の顔の良さも手伝ってその様は酷く可愛らしいく、どちらにしてもこんな奴が神様だなんて信じられるわけがなかった。そもそもこのご時世、突然神様だなんて名乗られて信じる奴の方が皆無に等しいだろう。


「君、信じてないだろ?」
「ったりめーだろうが」
「神様を信じないなんて、俺は今自分という存在を全否定される事と等しい扱いを受けた。俺の心は酷く傷つけられたよ、君のせいでね」
「………………。」


この状況もそうだが、こいつ……すごく面倒臭い。というよりもウザい。ただでさえ面倒なこの状況がもっと悪化するなんてのはごめんだった。


「あー……じゃあその神様とやらが一体全体俺に何の用なんだ?」


面倒臭いが、ここはなるべく相手の用件を聞き、それに応えてやった方がいい。それがこの状況から一刻も早く抜け出す為の最善の策、だろう。俺はあまり頭も要領もいい方ではないが、こういうタイプの奴は適当に用件を聞いて適当にあしらうのがいいと、以前上司が教えてくれた事があった。
心の内で気のいい上司に礼を言い、さっさと終わらせようと端的に問う。


「うん、それなんだけどさ、暫く君の家で生活することにしたから。よろしくね、平和島静雄くん」
「…………は? 待て待て。手前、何言って、」
「大丈夫、家の場所なら知ってるし。あっ、俺のことは臨也って呼んでいいからね。他に何かある?」
「ありまくりだ!」


俺の家を知っている? 住む…だって? 全くわけが分からない。
変わらずニコニコと笑うそいつは、どうやら本当に俺の家を知っている様子でスタスタと歩き出す。いっその事そのまま歩き去ってくれればよかったのに。俺の願いも空しく途中でくるりと振り返った“自称”神様は、早くしないと置いて行くぞと言わんばかりの勢いで俺に言った。


「おーい。家は知ってても鍵持ってないんだから、早く来てよねー」
「っ、おい手前いい加減にしろよ! 何が神様だ、ふざけんのも大概にしやがれ」
「ん? ああ、何だまだ信じてなかったんだ? メンドクサイなー。人間って」
「……手前にだけは言われたくねぇ」
「ま、そこが愛しくもあるんだけど。でも…どうしたものかなぁ……あ、そうだ」

何を閃いたのか、そいつは辺りをキョロキョロと見渡した。見渡すといってもここは一般的な大通りで、普通に人も交通量も多いだけのただの道路。先程までは俺たちを奇異の眼差しで見ていた輩も今では姿を消し、すれ違ったほんの数人が怪訝そうに眉を寄せるだけだった(といってもその原因は俺が道のど真ん中に立っていたからなのだが)。
臨也はその人込みをジっと見つめると、一人の女性を指差す。白いスーツを着こなす、綺麗な女性だった。栗色のウェーブがかかった髪が印象的な、ただの人。


「あの人、もうすぐ死ぬよ」
「………はぁ?」
「だからあの人間。もうすぐ死ぬから。ここで」


「まあ見てなよ。」ひどく無表情に言うそいつが数分前と同じ奴だなんて信じられなくて、更に言えばいくら冗談といえど質が悪すぎて。
強く言及しようとした俺の言葉を遮ったのは――――…耳を劈くようなクラクションの音だった。


「なっ…」


次第に増してくる悲鳴と喧騒。一台の車が突っ込んでいたのは紛れも無く、さっきまで彼女が立っていた場所だった。五月蝿すぎるほどの喧騒の中で、俺は確かにそれを予言した張本人が「ほら、やっぱり」と言ったのを聞いた。
 今思うとこんな賑やかな大通りで、数メートル離れた位置にいるにも関わらず普通に会話が成立していたことが既におかしかったのだ。俺の名前も家も知っていたことに、もっとずっと前から疑問を抱くべきだった。


「俺が神様だって、これで信じてもらえたかな?」


神様かどうかはともかく明らかに“人外”のそいつは、にっこりと、無邪気に笑ってみせた。







(20111017)
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