※死ネタ注意!










8月15日。とても天気がよく暑い、そんな普通の日。


「あ、猫だネコ。シズちゃん見て見て! ネコネコ!!」
「おー……捨て猫か? 可愛いな」


小さな公園のベンチでにゃあにゃあと猫と戯れる臨也に向けての言葉だったのだが、本人はそれを猫の事と思ったらしい。「可愛いねー」としゃがみこみながら喉元を撫でる臨也に、自然と笑みが零れた。


「飼い主いないなら俺の家で飼おうかな……」
「いいんじゃねえか? 手前の家質素だし、そいつ飼ったら花もでるだろ」
「何それ、俺にしつれ―――……あっ!」


臨也をからかっている間に猫の方はスルリと臨也の腕から逃げてしまったようで、公園の出口に向かう小さな後姿に俺も臨也もほぼ同時に立ち上がった。まだチビのくせにいきなり道路なんかに出たら車に轢かれかねない。そんな思いからの挙動だったのだが……どうやら臨也の方は違ったらしい。


「こら待てクータ!」


早々と猫に変な名前をつけた臨也は、クータとやらを追って走って行った。

 その瞬間ゾワリ、と悪寒が走った。この感覚を、俺は知ってる。何度も経験してきたこの感覚。


「待て! いざ…―――!」


けれど気づくのも、止めるために走り出すのも…遅すぎた。
けたたましいクラクションの後




臨也は車に撥ねられて死んだ。










「―――――……ッ!!」


8月14日。どうやら俺はまた臨也を救えなかったらしい。
 自室の蛍光灯に手を翳しながら、何度目かの「ごめんな」を呟いた。







* * *


8月15日。とても天気がよく暑い、そんな普通の日。幾度目かの同じ夏。


「あっつーい! アイス食べたい」
「どっか寄ってくか? アイスくらいなら奢ってやる」
「マジで!? シズちゃんやっさしーい」


夏の日差しのようにカラカラと笑う臨也にアイスを買ってやり、一緒に歩く。アイスが溶けるからと言う臨也の為に立ち寄った路地裏は、臨也のお気には召さなかったようだ。アイスを舐めながら小さく零された愚痴に、ほんの少しだけ眉を寄せた。


「日陰入りたいって言ったのは俺だけどさぁ……何でここなの。木陰とか、せめて公園」
「公園は駄目だ」
「路地裏がよくて公園が駄目とか……シズちゃんってわかんない」
「いいから早く食え。溶けるぞ」


未だに文句ありげな様子の臨也だったが背に腹は変えられないらしく、その口一杯にアイスを頬張った。まるで栗鼠のような食べ方に苦笑しつつも、自分の分のアイスに口付けた――…瞬間、またあの感覚。


(っ、どこだ、今度は何で……!)


右か左か。はたまた正面か。今度は何が起こる、車が突っ込んでくるか? それとも臨也に恨みを持った連中が……刺しに、…拳銃、爆発も……、…………。何だ、何がこいつを殺す。何で…。


「シズちゃん?」


何でこいつなんだ、なぜ臨也が死ななきゃならない。こんなに何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も……!!


「シズちゃん、」


そしてなぜ俺は、何度も死ぬ臨也を一度も救えない? いつだって…いや、そうじゃない。そうじゃなくて今は臨也を、


「シズちゃんってば!」
「あっ……、ああ、悪ぃ、」
「俺ずっと呼んでたんだけど……俺とのデートなのに、俺以外の考え事?」


拗ねてしまった様子の臨也にもう一度悪ぃと謝って手を伸ばす。早く、早くここから離れなければ。何かが臨也を殺すのは確かだ、ならば早くここから逃げた方がいい……そう思って伸ばした手をしかし、臨也は中々握り返してはこなかった。


「……おい、アイス食ったんなら行くぞ」
「ヤダ。俺まだ許してないから」
「おい、」
「チューしてくれたら……許してあげてもいいけど?」


どうやらまだ先程のことを根に持ってるらしい。いつもなら「アホか」と笑ってキスでも何でもしてやる所だが、生憎今は時間が惜しい。
 無理矢理に手を握っても、それは乾いた音と共に離れていってしまった。2歩、3歩と俺から距離を取る臨也は少し悲しそうに見えたが、今の俺にはそれに構えるほどの余裕なんてなくて。


「シズちゃん…なんか、変、だよ? さっきから……」
「臨也、頼むいい加減に――――」


してくれ。最後まで出るかと思われた言葉はけれども最後まで臨也に届くことはなく、何かが壊れるような(例を挙げるならば静雄が喧嘩をしたときのような)音がそれを遮った。
頭上の鉄骨が壊れてしまったのだと、それが他でもない臨也に落下しているのだと……気づくのは、あまりにも遅すぎた。


「臨也、っ…!!」
「え? あ……、」


俺よりもコンマ数秒遅く事態に気づいた臨也は、綺麗な赤い眼を驚きに見開きそして、




「――――、…―――。」




一瞬だけその口が笑みを作ったように見えた後、臨也は黒い塊に飲み込まれて消えた。
塊の隙間から流れる赤いそれが、臨也の瞳を思い出させて。
「よかった」と紡いだように見えた唇の赤さを思い出させて……。


「あ…あぁあ、あぁぁああぁあああ!!!」


直前に見せた臨也の笑顔ごと、俺の世界はぐにゃりと歪んだ。










8月14日。またここから始まる。この蛍光灯の景色から、また…。


「…め、ごめん、臨也……ごめんな、ごめ……っ」


謝罪の言葉から、また…――。







* * *


それから。何度やり直しても臨也は死んだ。
ある時は階段から落ちて。ある時は列車に引きずられまたある時は全く関係のない事件に巻き込まれて。臨也自ら命を絶ったこともあった。

 何度やり直しても、臨也は俺の目の前で死んでいった。

8月15日の夏の日差しが、ゆらゆらと揺れる陽炎が。ゆらゆらと、まるで笑っているかのように現実を叩きつける。“何度やっても無駄だ”と言っているかのように。
もしも本当に俺が何をやっても無駄だと言うなら…俺は――。










「シズちゃん!!」


臨也がこちらに手を伸ばすのが見えた。
ゆっくりと、まるでスローモーションのように流れる景色の中で、俺は真っ白な光に包まれる。それが届かないことを嫌というほどに知っているから、伸ばされた手を取ることはしない。
視界の隅でゆらりと揺れた陽炎に「ざまあみろ」と呟いて。


「死ぬのがお前じゃなくて、よかった」


必死に手を伸ばす愛しい人に、精一杯の笑顔を向けて。
つんざくようなトラックのクラクションと眩しすぎるヘッドライトの明かりを最後に、俺の世界はくらりと揺れた。










8月14日。また、ここから始まるのか。
耳元でニーと鳴いた黒猫に頬をすり寄せて、同じ色の青年は小さく呟く。


「クータ…また……だめだったよ」


ごめんね、シズちゃん。
青年の小さな呟きにニーと鳴いて、黒猫は青年の涙を舐めた。







――――――――――――

タイトルから分かった方も多くおられると思いますが、こちらの作品はじ/ん(自/然/の敵/P)さんが作曲された、カ/ゲ/ロ/ウ/デ/イ/ズという歌をイメージしながら書かせて頂きました^^。
互いに互いを庇い合いながら、二人ともが生き残る道を探して繰り返す二人。それに激しく滾った結果、つい文章にしてしまいました(笑)
聴いたことがないという方は、是非、聴いてみてください!

ここからは全くの余談になりますが、文中にでてきた“クータ”という名前は、「静か」の“quiet”と、「臨む」の“take”から最初二文字を拝借し、ローマ字読みをした結果出来上がった名前です^^。
変な名前でも臨也さんのネーミングセンスを考えればアリかな、と(笑)

それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました!!


(20111012)
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