緊張で僅かに震える指を叱責して、臨也はインターホンに触れる指に力を込めた。ピンポーン…と間延びして響く乾いた音に、臨也の緊張は更に増す。相手を待つこの時間が、いつまでたっても苦手だった。そして、やがて家の主は姿を現す。いつもの金髪に少しの寝癖をつけ、普段とは違う白いワイシャツを緩く着こなして。

自然と優しく零れる笑みに、静雄も少しだけ笑ってみせた。


「思ったより早かったな。何か飲むか?」
「お、お茶でいいよ。そんなに量もいらない、から……」


上擦って碌に返答出来ない自分がひどく滑稽に思える。そっと後ろを盗み見ればカチャカチャとコップを用意する彼の背中があって、今の自分とは正反対にその背中がとても頼もしいものに思えた。
あまりの余裕のなさから大きく深呼吸をし、状況と気持ちを整理することに全神経を費やす。

 今日、彼とこんな風に会ってデートをするのは初めてのことではなかった。ただ一つ違ったのは、今日のデートは彼―シズちゃんの方から誘ってくれたということだ。


(初めて……シズちゃんから誘ってくれた…)


しかも自宅に。たったそれだけのことで、臨也の顔は真っ赤になってしまうのだ。期待と緊張から強張る心臓にもう一度大きく酸素を送ってやり、ぎゅっと留める。そうするとほんの少しずつ、縮まっていた心が柔らかくなっていくような気がした。


「大丈夫か? そんなに来んの大変だったのかよ」


折角落ち着いてきていた心臓が、再び大きく脈打った。両手に二人分のコップを持って帰ってきたシズちゃんは、当たり前のように俺の隣に座る。ほれ、と渡されたコップはしかし、俺が想像していた物ではなく黒い液体に満たされていた。
それは紛れも無くコーヒーで、でも俺が頼んだのは確かにお茶で……。


「え……? えっと、これ」
「ん? ああ。手前、コーヒー飲みたそうな顔してただろ」


なーに遠慮してんだか。笑われながらわしわしと撫でられると、顔がぶわわっと赤くなる。彼の言う通り、確かに俺はあったかいコーヒーが飲みたいなぁと思い、けれどもそれにかかる手間を考えてお茶でいいと言った。それは、ほぼ無意識に思ったことだった。
でも彼はそれに気づき、そして笑ってくれた。たったそれだけの事が、どれ程俺の心臓を悩ませているのか……君はきっと知らないんだろうね。


「あり、がと…すごく、飲みたかった」
「おう。疲れてんならそれ飲んで横になってろ」


愛されてるなぁ、と思う。この胸いっぱいに愛しい、とも思う。緩む頬は、どうしても抑え切れなかった。
 そして臨也の知らないところで臨也を見ていた静雄も、隣で笑みを浮かべる臨也に笑ってみせた。

ふわふわと香るコーヒーの匂いと、優しい時間。


「シズちゃん」
「んー?」
「好きだよ。……すっごく好き」


その時間の狭間に零した言葉に静雄は、「俺は愛してるけどな」と返してみせた。






そして額にキスをして

(キザっぽい台詞だなぁ)
(でも、好きだろ?)
(……ん。)








――――――――――――


リクエスト作品、「自宅デート中の甘いシズイザor素直になれない二人」でした。

nora様に捧げます!

二つのリクエストの内、今回は自宅デートで書かせて頂きました^^。甘く……なっているでしょうか。
私自身甘いのが苦手なので、ご不満な点がありましたら、遠慮なく言って下さい! リテイクなら年中無休で受け付けております^^

さて、今回書かせて頂いたリクですが、自宅デートという初めて書く作品に、戸惑いつつも多くの事を学ばせて頂きました。様々な意味を込めて、nora様には大変感謝しています^^!

それでは、この度は作品が遅れてしまい本当にすみませんでした……!
リクエスト、ありがとうございました!!


(20111006)
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