掴まえてほしい月曜日





 絶対ぇ引っ張り出してやる
 …! と意気込んだはいい
 物の、しかし今の俺は一体
 何から始めればいいのか全
 く分からない状態だった。
  そもそも自分から“他の
 人格”というものを造り、
 その絶対防壁の中に閉じこ
 もってしまった臨也をどう
 やって引っ張り出せという
 のだ。俺の愛を証明しろと
 いうのだって、愛なんてい
 う抽象的で実態のないもの
 をどうやって……。


 「だあぁああぁ!! うだう
 だ考えても仕方ねえ、分か
 んねえなら聞くまでだ」


 幸い今日の分の取立ては少
 なく、午前中には終わると
 思われた。午後から新羅辺
 りに聞いてみよう。

 今すぐにでも向かいたい気
 持ちを抑え、俺はいつもの
 バーテン服に袖を通した。






 * * *





 「……で? なぜ君は臨也
 もいるっていうのに僕に相
 談を持ちかけたのかな」


 案の定午前中に仕事が終わ
 り、重い息を吐きながら、
 けれど若干の期待も寄せて
 友人の家へと訪れた……直
 後の、友人の言葉である。
 付き合い始めた頃…いや、
 それよりも前から臨也には
 馬鹿だ考えなしだと言われ
 てきたが、俺は今日改めて
 自分でそれを実感すること
 となった。

 そうだ。臨也は多重人格と
 うい症状が治るまでは、新
 羅のマンションで暮らすこ
 とになっていたのだ。生活
 に支障はないし、本人の家
 に帰せばいいのではないか
 。それか、臨也の面倒なら
 俺が見ると言ったのだが、
 新羅曰く、脳の状態を調べ
 たいらしい。甘楽の言う通
 り多くの人格を生み出すこ
 とで臨也の人格をもみ消し
 てしまうというのなら、そ
 の根幹である脳や脳波にも
 何らかの異常が現れるはず
 …なのだそうだ。

 正直難しいことは分からな
 いが、とにかく臨也は今新
 羅の所にいる。臨也のいる
 所で本人に関する相談をす
 るというのは確かに愚の骨
 頂と言える行為だった。


 「でもまあ、不幸中の幸い
 かな。今、臨也は自分の荷
 物を取りに帰ってるから」
 「そうか…」


 それならこいつの最初の言
 葉はただ俺を馬鹿にしただ
 けということになる。が、
 今はそんな文句を言ってい
 る暇はない。タイムリミッ
 トは臨也…基、甘楽が帰っ
 てくるまでなのだから。


 「思い半ばに過ぐ、とまで
 はいかないけど、君の言い
 たいことは分かるよ。甘楽
 “達”のことだろう?」


 よほど俺の表情が暗く悲観
 的だったのか、新羅は小さ
 く息を落とすと、真っ白な
 カップに口をつけた。ゆら
 ゆらと揺れる湯気の向こう
 、新羅の瞳が鋭くなったよ
 うに感じた。


 「そんなに焦っても仕方な
 いよ、静雄。落ち着けとは
 言わないけど、少し冷静に
 なった方がいい」


 そう言う新羅の顔にも僅か
 ばかりの疲労が窺える。結
 局、俺たちが思っているこ
 とは同じなのだ。


 「何か、何か手がかりはね
 えのかよ……ッ!」


 それは縋るような声だった
 。臨也がいついなくなって
 しまうかも分からない以上
 、どれだけ時間に余裕があ
 るのかも分からない。だか
 ら頼れるものには頼り、藁
 どころかどんなに細い枝に
 だって縋ってやる。

 けれど、新羅は「残念だけ
 ど…」と小さく首を振った
 。


 「臨也が出たくないの一点
 張りらしくてね、話を聞こ
 うにも難しい状態なんだよ
 」
 「甘楽辺りにでも引っ張り
 ださせりゃ」
 「それは無理だよ。甘楽は
 あくまで、臨也が生み出し
 た人格でしかない。意識は
 別だろうと臨也の一部であ
 ることに変わりはないんだ
 」


 つまりは手詰まり、という
 ことか。
 何度目かも分からない重い
 息を吐き出すのとほぼ同時
 に、玄関から「ただいま帰
 りましたー!」という、な
 んとも場にそぐわない明る
 い声が響き渡った。










 (20110416)
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