「っ、…ろ、に」
「え、なに? 聞こえない
。掻き消されちゃうんだよ
、風に。今日は風が強いか
らね――うっかりバランス
を崩しそうなほど」
おそらくその言葉が、金色
の青年にとっての決定打だ
った。
「っ、だから、後ろに……
っ、俺の方に降りろって言
ってんだよ!」
「どうして? 君は俺に死
んでほしいんじゃないの?
」
「そう、思ってた…けど、
今は違う。俺は手前に死ん
でほしくない」
何でかなんて俺にもわかん
ねえから…聞くな。最後に
そう付け足して、金色の青
年は俯く。
言いたいこと
言わなければならないこと
言うべきではなかったこと
それを口にしたことに、少
しの後悔と満足感と達成感
を覚えながら。これでよか
ったのだと、金色の青年は
確かに安堵を覚えていた。
――けれど、
「……ふーん。それがなぜ
かは分からないけど、シズ
ちゃんは俺に死んでほしく
ないわけだ。でもさ、」
そんな金色の青年の想いす
ら、青年は真っ黒に塗り潰
す。
「俺がシズちゃんの言うこ
となんて聞くと思う? 違
うだろ? 俺は折原臨也。
卑怯で卑劣で最低で、今こ
こにこうして立っている理
由すらも卑怯臭い。そんな
俺が、人、ましてやシズち
ゃんの言う通りに行動する
なんて有り得ないよ。右と
言われたら左に。上と言わ
れたら下に。そして後ろに
と言われたら――…」
「――…ッ臨也!」
金色の青年は今度こそ駆け
出し、黒色の青年へと手を
伸ばした。
「バイバイ、シズちゃん」
けれど言葉や想い同様、金
色の青年の手が黒色の青年
に届くことはなかった。
黒色の青年は降りる。真っ
黒の世界へと、堕ちる。
真っ黒の世界は黒色の青年
を塗り潰し、黒色の青年は
世界の一部となった。
サヨナラ世界
(こんにちは、新しい世界
)
(20110119)