すべてが始まる日曜日





 「電話をしようかしまいか
 悩んだのだけど、難局打開
 の策がないみたいだったか
 らこうして君に話しをする
 よ。もっとも、百聞は一見
 にしかず、口で言うより直
 接見た方が信じられるだろ
 うから、疾風迅雷の勢いで
 今から僕の家に来てほしい
 。正直俺だけじゃ手がつけ
 られないんだ。念を押すよ
 うだけれど早く、だよ。早
 くだからねー!」


 そんな一方的な電話に、そ
 れでもほいほいと旧友の家
 に行った数刻前の俺を殴っ
 てやりたい。それはもう全
 力で。


 「へぇ、あなたが静雄くん
 ですかぁ。ナマで実物を見
 るのは初めてですけど、臨
 也が惚れちゃうのも成る程
 納得ですねぇ。あっ、申し
 遅れましたぁ! 私のこと
 は甘楽ちゃんって呼んで下
 さい☆でもでも、静雄くん
 だったら甘楽でもいいかな
 ぁ〜なんちゃって☆」


 今俺の腕にまとわり付いて
 くるこいつは、確かに俺の
 恋人、折原臨也…なのだが
 、新羅曰く中身が全然違う
 ……らしい。


 「解離性障害。所謂多重人
 格ってやつだね。体は確か
 に臨也なんだけど中身は違
 う。今は“甘楽”で、性別
 はどうやら女性みたいだね
 」
 「『今は』ってことは他に
 もいんのかよ……」
 「いますよぉ! 静雄くん
 の為なら、甘楽ちゃん他の
 人呼びますけど、どうしま
 すかぁ?」


 どうも甘楽の口調には慣れ
 ない。どうやら俺は、甘楽
 が苦手らしい。それに他の
 人というのも気になる。少
 し悩んだが、他の人とやら
 を呼んでもらうことにした
 。

 どうか甘楽以上に厄介なの
 が出てきませんようにと祈
 りながら…。

 甘楽が一度目を閉じ再び開
 けた時、そこには臨也のも
 のでも甘楽のものでもない
 、あどけなさを含んだ瞳が
 あった。


 「えっと…、お前は……」
 「あっ、しずおくんだぁ!
 はじめまして いざやくん
 のだぁい好きなへーわじま
 しずおくん! おれはサイ
 ケっていうの。よろしくね
 !!」


 にっこり、という音が一番
 しっくりくるように笑う臨
 …サイケ。お願いだから臨
 也の顔でそんなことをしな
 いで欲しい。
 ……正直、腰にクる。


 「――…ほかのひと? う
 ん、いるよ。しずおくん、
 みんなに会いたいの?」


 サイケの話しを聞けば、ま
 だいるのだそうだ。言うま
 でもなく、臨也の他の人格
 、というやつが。サイケに
 聞けば、奈倉に六臂に日々
 也。甘楽とサイケを合わせ
 れば5人の人格が、臨也の
 中にいる。その一人一人に
 会って話しを聞いた。皆違
 う人間なのに、俺を見た時
 の反応は皆大体同じような
 ものだった。


 「成る程、貴方が静雄さん
 ですか。臨也の想い人の」
 「ふん、貴様が静雄か。臨
 也の奴も貴様なんぞのどこ
 が好きなのか、理解に苦し
 むな」
 「平和島くん、だよね。臨
 也が好きだっていう。はじ
 めまして、俺は六臂ってい
 うんだ」


 ……なんだお前ら。いや、
 お前らというよりは臨也か
 。新羅もいるってのにどい
 つもこいつも好き好き言い
 やがって。冷やかしてきた
 新羅は早々に一発食らわせ
 て眠らしたからいいが、恥
 ずかしいものは恥ずかしい
 。


 「で、臨也の奴はどうした
 。早く臨也を出せ」
 「あはっ、“臨也を返せ”
 の間違いじゃないんですか
 ぁ? 静雄くん」


 一周回ってどうやら今は甘
 楽らしい。曰く、自分が一
 番支配力が強い存在なんだ
 とか。


 「臨也じゃなくても、静雄
 くんなら私が愛してあげま
 すよぅ! 外見は臨也なん
 だから、いいでしょう?」
 「ふざけんな。俺は臨也に
 会わせろっつったんだ。手
 前らであいつの代わりが務
 まるかよ。いいから早く―
 ―…」


 臨也を出せ。その言葉は、
 甘楽によって遮られた。人
 を小馬鹿にたような、臨也
 にひどく似た口調で甘楽は
 言う。


 「静雄くん、まだ分からな
 いんですかぁ? 何で臨也
 が私達みたいなのを生み出
 しちゃったのか。何で臨也
 が出てこないのか」


 出てこない…甘楽はそう言
 った。「出てこられないで
 はなく「出てこない」と。
 それはつまり、臨也がそれ
 を望んでいるということで
 ……。


 「…手前らは、一体何がし
 たいんだよ」
 「それはもちろん、臨也の
 体を完全に私達のものにし
 たいんですよぅ! だけど
 そのためには、臨也とのゲ
 ームに勝たないといけない
 んです。臨也と私達と、そ
 れから静雄くんとのゲーム
 に!」


 ……成る程、あのくそノミ
 蟲のやりそうなことだ。つ
 まり俺は、


 「試されてるってことかよ
 。俺が臨也を引っ張り出し
 てくることができたら勝ち
 、できなかったら負け、か
 ?」
 「正確でーす!! 言ってお
 きますけど、別に私達が臨
 也を閉じ込めてるわけじゃ
 ないですよ? 臨也が表に
 でたいと思えば、それは簡
 単にできるんです。でもそ
 れをしないのは、」


 俺を、試しているから。試
 されているのはおそらく、


 「臨也の静雄くんに対する
 愛は本物ですよ。それは私
 達が保証します。…一つの
 体に6人分の人格があるの
 って、どんな気分だと思い
 ますか? 窮屈ですよ、す
 ごぉく。このままだと臨也
 の人格は私達5人に押し込
 まれ擦り減って、やがて消
 えます。そうなれば私達の
 勝ち。この体は私達のもの
 になるってことです。もち
 ろん、臨也はそれを了承し
 てますよ? それくらい臨
 也の静雄くんへの想いは強
 い。きゃっ、甘楽妬いちゃ
 いますぅ」




   『シズちゃん』




 ……うぜえ。臨也の顔で、
 声で、「静雄くん」なんて
 呼んでんじゃねえよ。


 「ぜってえ引っ張り出して
 、その面ぶん殴ってやる。
 だから、覚悟してろよ、“
 臨也”」

 「静雄くんにできますかね
 ぇ?」
 『やってみなよ、シズちゃ
 ん』


 俺の言葉に呼応するように
 、どこからか楽しそうな臨
 也の声が聞こえたような気
 がした。







 ――――――――――――



 本当はこれ1話だけの短編
 のつもりだったんですが、
 友人の要望により長編にす
 ることととなりました(笑
 )

 これからぼちぼちと更新し
 ていくので、よろしくお願
 いします^^



 (20101202)
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