*絵かきシズちゃん×一般
  人臨也さん







 臨也が散歩でその公園を通
 るのは、いつものことだっ
 た。

 いつもと同じのどかな緑が
 広がるその道を、臨也は綺
 麗な空気を肺に取り込むよ
 うに吸い込む。都会とは思
 えないほどに和やかに澄ん
 だ空気の中、臨也は見慣れ
 ない金髪を緑の中に見つけ
 た。
 金髪にバーテン服。手に持
 っているのはスケッチブッ
 クだろうか? 忙しなく何
 かを描き込んでいる姿は、
 言ってしまえば場に似合っ
 ていない。けれども真剣に
 何かを見つめ描いている彼
 の姿は見る者を惹きつける
 何かがあった。普段は絶対
 にそんなことをしない臨也
 に、話しかけてみようかと
 思わせるほどに。


 「絵……?」
 「――…ッ!? ………びっ
 、くりしたー…」


 金髪の青年も話しかけられ
 るとは思っていなかったの
 か、些か過剰とも思える反
 応を返す。よく見ればその
 瞳は澄んだ栗色をしており
 、綺麗な顔立ちをしていた
 。

 少し経てば青年も落ち着き
 を取り戻したのか穏やかな
 表情で語り始める。


 「……ああ。偶然ここ通っ
 たら、綺麗などんぐりの木
 があったからつい、な。そ
 れにここは空気が澄んでい
 ていい。都会とは思えねぇ
 ほどだ」
 「へえ。確かにここはいい
 。緑も綺麗で、俺も好きだ
 よ。…それ、見てもいいか
 な?」


 臨也はそんな青年の横顔に
 胸が高鳴るのを感じながら
 も、それ、とスケッチブッ
 クを指差す。先程ちらりと
 見ただけでも細かく繊細に
 絵が描かれていたのを臨也
 は見逃していなかったのだ
 。この場所が好きな臨也と
 しては、それをこの青年が
 どう表現したのか、気にな
 るところだった。


 「見せるのはいいが、大し
 て上手くもなんともないぞ
 ?」


 言いながらもおずおずとス
 ケッチブックを手渡す青年
 の言葉に相槌を打つと、臨
 也はパラパラとページをめ
 くった。


 「うわっ……すご」


 そこに描かれていたのは様
 々な風景。臨也が知ってい
 る何気ない道や、見たこと
 がないどこかの海。それら
 すべての情景が臨也の脳内
 も同じような色に染めた。
 絵そのものは色のないモノ
 クロなのにもかかわらず、
 線の一本一本で細かく表さ
 れたその輪郭が、ある主の
 立体感を持って瞳を通し脳
 へと届く。人物画ではなく
 風景画が多いのは、彼が現
 地で気に入った対象を手の
 動くままに描き綴ったから
 だろう。
 もう一ページぱらりとめく
 れば、そこには臨也の目の
 前にもある大きく立派など
 んぐりの木。臨也は短くあ
 っと声をあげると、そっと
 絵の上を指でなぞった。


 「すごい……。すごく、き
 れい」


 綺麗。そんな陳腐な言葉で
 しかこの絵を表現できない
 ことを臨也は呪った。けれ
 ど彼の絵を言葉にするなら
 まさしくそれで、それだけ
 で十分とも思える。現に、
 言われた青年の方は照れく
 さそうに頭をかいた。


 「……あんた、名前は?」
 「俺? 折原臨也だけど」
 「そうか。臨也…。よかっ
 たら、なんだが……」
 「なに?」


 急にしどろもどろになり、
 あーとかうーとかを呟く青
 年に臨也は眉をひそめるが
 、じっと彼の言葉を待つ。
 青年は一度大きく深呼吸を
 すると、ようやく目的の言
 葉を口にした。


 「よかったら、臨也を…―
 ―描かせて、ほしい……」
 「え……、」
 「人物画を描いたこと無い
 から上手く描けるかなんて
 わかんねえけど、なんつー
 か…描き、たいんだ……。
 臨也が嫌なら無理にとは言
 わねえ! 怪しまれるのだ
 って承知の上だ。でも……
 」


 青年の必死な物言いに、驚
 いて呆然としていた臨也も
 思わず吹き出す。突然笑わ
 れたことを何か他の事と勘
 違いしたのか、青年は小さ
 く悪ぃと謝った。


 「ふ……っはは! ちが、
 違うからっ…、はー、面白
 いね、君。名前は?」
 「静雄。平和島、静雄」
 「静雄、くん。俺なんかで
 よければ喜んで」


 未だクスクスと笑う臨也の
 言葉に、静雄は自身の金髪
 と同じくらい顔を輝かせた
 。




 とある公園のとある緑の中
 、とある大きなどんぐりの
 木のその下で、とある一つ
 の小さな種が小さく、けれ
 ど力強く芽吹く。

 それが綺麗に花開くのは、
 これからもう少し先のお話
 。







 ――――――――――――



 臨也さんに「静雄くん」と
 言わせたかっただけ(笑)

 タイトルは友人のお題から
 いただきました。友人あり
 がとう!





 (20110121)
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