「ねえシズちゃん、シズち
 ゃんは俺のこと嫌い?」


 ある日の池袋。絶えること
 のない騒音、人の声、人の
 数。そんなもので賑わうそ
 の街の、けれどそんな喧騒
 とは掛け離れたところにあ
 る路地裏で、折原臨也は平
 和島静雄にそう問うた。


 「あ゛? んだ、今度はな
 に企んでやがる」
 「なにも企んでやしないさ
 。ただの質問だよ。…ねえ
 、俺のこと嫌い?」


 嫌悪感を隠そうともしない
 静雄に、臨也はそれをさら
 りと流す。やがて静雄は「
 手前なんか大っ嫌いだよ。
 だから大人しく俺に殺され
 ろ」殺気に乗せてそう放っ
 た。


 「それはよかった。俺もシ
 ズちゃんのこと、大嫌いだ
 からさ。まあ当然殺される
 のは御免だけど、俺は俺を
 殺せるのは君だけだと、そ
 う思ってるよ」


 折原臨也が何を言いたいの
 か、何を考えているのか、
 分からないのはいつものこ
 とだ。

 要領を得ない会話。
 人を惑わせる言葉。
 張り付けた笑み。

 折原臨也の本心、本当の顔
 を、静雄はまだ一度も見た
 ことがなかった。

 だからこそ余計に、腹が立
 つ。

 先の言葉を促すように黙っ
 て睨みつける静雄に、臨也
 は満足げに笑みを深くする
 と「知ってるかい?」と言
 葉を続けた。


 …――知ってるかい?好き
 の反対は嫌いじゃないんだ
 よ。好きの反対は“無関心
 ”さ。トランプに例えるな
 ら、表が嫌いで裏が好き。
 裏の更に裏が無関心ってと
 こかな。…ああ、ここで「
 裏の裏は表じゃないのか」
 なんて馬鹿丸出しの事を言
 うのはやめてよね。いいか
 いシズちゃん、好きと嫌い
 はトランプの表と裏なんだ
 。ただ、俺達の場合は嫌い
 が表だろうけど。そしてそ
 れは、トランプをひっくり
 返すだけで簡単に変わる。
 好きは嫌いに。逆もまた然
 り、だ。よく言うだろ?「
 好きと嫌いは紙一重」って
 さ。つまり好きと嫌いは≠
 で繋がれるんだよ。反対じ
 ゃない。寧ろ近しい存在な
 のさ。
 …だが、無関心はどうだろ
 う。例えば君は、足元に転
 がっている石に意識を向け
 たことがあるかい? 降っ
 てくる雨一粒一粒に「鬱陶
 しい」という感情を抱くか
 い? 答えは否。そうだろ
 ? 石ころなんかに“好き
 ”も“嫌い”も抱かない。
 そういうマニアなら話しは
 別だけど、君も俺もそうじ
 ゃない。石ごときに特別な
 感情なんて抱かないだろ?
 石ころは所詮、石ころだ。
 そう考えると、好きと真に
 対極であるべきなのは無関
 心なのさ。

 好きの反対は嫌いじゃない
 。
 大好きの反対は大嫌いじゃ
 ない。
 愛してるの反対は憎いじゃ
 ない。

 これら全ての反対は無関心
 、なんだよ。
 …ねえシズちゃん、俺は君
 のことが嫌いで大嫌いで憎
 くて憎くて仕方がない訳だ
 けれど、


 「――…シズちゃんは俺の
 こと、嫌い?」


 初めてみた臨也の真剣な表
 情。顔は変わらず笑ってい
 るのに、目は笑っていない。
 …んだよ、できんじゃねえ
 か、そんなカオ。


 「手前の言いたいことも言
 ったことも半分も理解出来
 なかったがよォ、これだけ
 は言えるぜ。俺は手前のこ
 とがこの世界で一番、誰よ
 りも




     大っ嫌いだ




         ってな」


 そう言ってやれば、目の前
 の黒髪は「よかったよ」と
 笑った。

 あ、その顔も初めて――…










 (20101220)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -