ねえ、気づいたんだ。

 昨日の朝早く、君が割った
 グラスをかき集めながら。
 そのグラスの破片で指を切
 った時に。そこから滴る赤
 い雫を眺めた時に。

 俺達はこんなことをしたか
 ったのかなって。

 分かってたよ、心の奥底で
 は。君も薄々気づいてたん
 じゃないかな。

 “俺達にとって一番辛い選
 択が、俺達にとって一番ベ
 ストな選択なんだ”ってこ
 と。

 だけどどうしても認めたく
 なくて、そんなのは嫌だっ
 ていう自己愛がどうしても
 邪魔をして。そしてまたそ
 の繰り返し。だってそうで
 しょ? ゆっくりと、でも
 確実に朽ちて廃れていくこ
 の世界で、足掻いて足掻い
 てやっと見つけた唯一の活
 路。その答えがこれだなん
 てそんな残酷なこと…認め
 たくなんてないよ。

 …でも、いつかきっとその
 時は来る。それも近い内に
 。だからもう色褪せてしま
 ったけれど、君のあの不器
 用な微笑みを今、胸に刻み
 つけるんだ。深く……深く
 。


 ――…ねえ、シズちゃん





 * * *





 浮かんだんだ。風が吹いて
 、花弁がぽとりと音をたて
 て地面に落ちてしまった時
 に。

 もし今この花弁を拾い上げ
 たとしても、元のように咲
 き誇ることはないんだとい
 うことが。そう、それは手
 の平の上の小さな死なのだ
 と。この落ちた花弁のよう
 に、俺達の時間も止まり続
 けてるんじゃねえかって。

 俺の中にいるお前はあの時
 で止まっているから、だか
 ら思い出すのはいつだって
 あの時までのお前で。初め
 て会った季節にナイフを向
 けてきたお前だとか、付き
 合うようになって初めて見
 たお前の綺麗な笑顔だとか
 、沢山沢山二人で作ってき
 た大切な思い出。そんな沢
 山の思い出を過去に、心の
 奥に押しやって、二人で沢
 山傷ついて傷つけて、傷つ
 け合っちまった。
 そんな俺達の心はまるで刺
 みてえだ。真ん中には大切
 なものがあるのに、それに
 触れられないように、それ
 を守るように作られた刺み
 てえだ。もしお前のそれに
 触れることが出来ていたら
 。もし俺が傷つくことを恐
 れていなければ。俺達はも
 っと違ってたかも知れねえ
 のにな、

 でも今さら悔いたって仕方
 ねえし、どうすることもで
 きねえ。今はもう重苦しく
 なっちまったこの関係。だ
 けど悲しいくらいに変わら
 ない心。最初とは大分変わ
 っちまったこの心。何でだ
 ろうな、俺はまだお前を愛
 しているのに。お前と離れ
 たくなんかないのに。

 …でも、俺が言わないとい
 けないことなんだよな。俺
 が伝えないといけないこと
 なんだよな。


 ――…なあ、臨也







 * * *





 「別れよう」


 そうシズちゃんに告げられ
 た時、俺はちゃんと笑えて
 いただろうか。表情とは裏
 腹に心には土砂降りの雨が
 降っていたけれど。俺はそ
 れをちゃんと隠せていただ
 ろうか。
 いつかこうなることは分か
 っているつもりだった。そ
 れが遠くない未来に来るこ
 とも理解しているつもりだ
 った。
 覚悟は出来ている…つもり
 だった。

 だけど、こんなにも痛いな
 んて思わなかった。まるで
 体を貫かれたような痛み。
 痛い。イタイ。痛いよ…で
 ももう、それを癒してくれ
 る君はいないんだね。ずっ
 と隣にいてくれると思って
 いた君はもう――。

 ねえシズちゃん。もし一度
 だけ、たった一度だけでも
 俺の願いが叶うなら、その
 時は何度でも…何度だって
 生まれ変わって、あの日の
 君に会いに行くよ。あの日
 の俺達を、もう一度やり直
 しに行くよ。そしたら今度
 は、お互いにもっと上手く
 できるよね。こんなことに
 はならないよね。


 これくらいの夢なら、見て
 も許されるよね……。







 * * *





 「別れよう」


 そう言った俺の声は震えて
 いなかっただろうか。臨也
 の微笑みを見て、泣きそう
 な顔をしていなかっただろ
 うか。

 あいつと別れ、離れた空間
 で一人、何度も何度もあい
 つの名前を呼んだ。

 声が枯れるほど
 声が枯れても
 何度も、何度も…

 けれどどれ程叫んでもそれ
 は空間にこだまするだけで
 。反響して、残響を残すだ
 けで。望んだ声が返ってく
 ることは無かった。

 自ら望んで壊した鎖。その
 先に望んだ世界は無かった
 けれど。俺達を繋いでいた
 唯一の絆は日常に溶けて消
 えてしまったけれど。お前
 はもう振り向かないで、鎖
 から解放された世界を存分
 にその目に映せ。

 振り向かないで“前へ”歩
 き出すんだ。


 俺達は、これで、おしまい





 (ありがとう、シズちゃん
 )
 (ありがとう、臨也)
 (さようなら、愛した人)
 (さようなら、愛しい人)







 We Are Just Be...

 (もう、友達にすらなれは
 しない)










 ――――――――――――



 BGMはもちろん某歌唱人形
 のあの曲でした。

 すいません、いい曲です。



 (20101026)
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