平和島静雄という男は全く以って身勝手で我が儘で一度言ったら聞かなくて、唯我独尊という言葉が最もしっくりくる人種である。
勿論俺の方もそれを理解して彼とお付き合いしている訳だけれど、人種が理解できてそれで彼の言動まで理解できるのかと言われれば決してそんな事はない。シズちゃんを一番理解しているのが俺でありたいという気持ちはあるが、実際、現実では気持ち負けしてしまっているように思う。


「ん。作った。手前にやるから食え」


今だってそうだ。どうやらシズちゃんは俺の思考を乱すことが大好きらしい。確信犯でない分マシだとしても、眉間に皺が寄るのはどうしても防げなかった。
シズちゃんが俺に手渡したのはおざなりに包装された箱型の何か。率直な疑問を提示した俺に、シズちゃんは一言、「ホワイトデーの」と答えた。


「今日、ホワイトデーだろ。だから」
「は?」


ホワイトデーといわれても、今日は4月19日。今朝カレンダーで確認したのだから間違いないはずだ。そもそも、3月14日と4月19日など、間違えようがない。明日がシズちゃんの日というだけあって、はっきりと記憶してた。
俺の表情が余程険しかったのだろう。シズちゃんはそれまでの真顔を一気に崩し、ぶはっと一つ吹き出した。


「ぶっはは、嘘だよウソ。今日はエイプリルフールだからな。いくらでも嘘付いていんだぜ?」
「……それも嘘?」
「おう、エイプリルフールだからな」


全くどうして、勝手な男だと思う。そういえばいつだったか彼が、「今年のエイプリルフールは何も出来なかった……信じらんねぇ」と嘆いた事を思い出した。思考回路が難しいようで、実は単純な奴なのだ。
こいつの気まぐれに付き合ってやろうかどうかをしばし思案したが、答えは存外直ぐに出た。


「そっか、今日エイプリルフールだっけ」
「――おう!!」
「なら、確かに今日はホワイトデーだ」

今日は4月19日。そして前述の通り、明日は4月20日でシズちゃんの日。
実は俺達が付き合い始めたのは2月の上旬。その頃だとシズちゃんの誕生日を数日だけ過ぎてしまっていて、俺はこっそりと残念に思ったのだ。あと数日早くに結ばれていれば、シズちゃんの誕生日を祝ってあげられたのにと。
数ヵ月後の4月20日は彼を優遇しようと決意したのは、それから一週間も経っていない時期だったと思う。

(一日先取りしちゃう事になるけど、まあ……いいか)

「ならそれ、食えよ。頑張って作ったんだからよ」
「それも嘘?」
「これはほんとだっつの」


笑って怒ったシズちゃんに嘘だよと笑って返して、包みを開く。シズちゃんが作ったというのは本当に本当みたいで、包装は随分と不器用で荒い。鋏を使いたい衝動に駆られたけれど、なるべく綺麗に破いた。


「うわぁ…」


包みの下から現れたのは、外装とは到底一致しないくらい形良く作られたチョコレートだった。解いた瞬間から甘い匂いを放つ、ホワイトチョコレート。形はシンプルな円形状だけれど、なんだかシズちゃんらしいと納得出来た。
本当は俺は甘いものはそれ程好きじゃないんだけど。でも、シズちゃんが作ってくれた物を食べない事の方が、もっと好きじゃない。今この瞬間だけなら、首無しの大して美味しくない料理を新羅が泣きながら食べる理由が分かる気がした。まあ首無しのそれとは違い、このチョコレートは本当に美味しかったのだけれど。

俺が食べ進めていく様子をただ静かに見つめるシズちゃんが気になったけど、柄にもなく緊張してるのだと勝手に解決させる。
すっごく不味いよ、と嘘の感想を言っても彼の緊張が解ける事はなく、シズちゃんに見つめられながらチョコを食すという奇妙な絵が数分繰り広げられた。








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もうちょっとだけ続くんじゃよ。


(20120419)
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