臨也と付き合い始めてから、今まで知らなかったあいつの一面、表情を沢山知った。
仕事をする時には黒淵の眼鏡をかける事。料理が下手な事。風呂上りには必ずミネラルウォーターを飲む事。それがきれていると不機嫌になる事。以外に甘い言葉に弱い事も。悪態をつく時にはムカつく笑い方をするくせに、それが本音となると急に言葉がたどたどしく、頬も朱に染まる事、とかも。


「こ、これあげる」


今、まさにその朱色の顔で渡されたそれは、包みを見る限り恐らく何らかのプレゼント。けれどそれを貰うのに思い当たる特別な行事なんて、ない。誕生日にはきちんとプレゼントを貰ったし、ひっそりではあるが家でお祝いだってしてもらった。付き合い始めて今日で一年という訳でもないし、どれだけ探してもしっくりくる理由には行き当たらずにどうしても困惑した。


「えーっと……悪ぃ、何の?」
「ば………」
「ば?」
「バレンタイン、の」


バレンタイン。ああ、そういえば二月にはそんなイベントがあったな。二月、十四日に。


「一週間過ぎてっけど」
「う、うるさっ…! 作るのに二週間掛かったんだよ、仕方ないだろ」


二週間ってどんだけだよ。呟きかけて喉まで出かかった言葉を、喉元でぐっと押さえ込む。余り本音を言い過ぎると臨也は拗ねて包みを隠すに決まっているのだ。それもここ数ヶ月で知った、折原臨也の一面だった。


(なんつーか、言っちまえば面倒臭い性格だよな、こいつも)


それでも、こんな我が儘で自分勝手なお姫様にチョコを貰って嬉しいと思えるくらいには、俺はこいつの事を気に入っているらしい。素直にサンキュと礼を言えば、五秒くらいの間を空けて、本当に小さな声で「うん」と返ってきた。無性に愛らしいその姿に、可愛いと本音を言えばこいつはどんなカオをするだろうか。
折角貰ったチョコが照れ隠しの為に無残な残骸になるような予感がしたので言わなかったが、余りにも可愛いすぎるのだ。俺の恋人は。

思わずこちらが赤面してしまいそうで、不自然は承知で臨也から目を逸らした。その目線の先、恐らく二週間休むことなく酷使され続けたんだろう臨也の指には、絆創膏が張られていない箇所が見当たらない。なんとなく臨也の手を取ってみると絆創膏特有のガサガサとした感触が伝わってくる。普段のスベスベとしたその滑らかさとは一転した、荒い手触り。


「何で手前は傷塞がるの遅ぇんだよ」
「はぁ? あのさ、俺のが普通だってのに俺が悪いみたいな言い方するのやめてくれないかな。大体これ、チョコ作る為に出来た傷だから。突き詰めればシズちゃんの所為だからこれ。それをさ、」
「あーもういいから。黙れ。そうじゃなくてよ、手ぇ繋ぎにくいだろ、これじゃ」


セックスする時だって、こんな手じゃシーツすら握れないに違いなかった。ああでも痛がる臨也も腰にクるものがあるので、俺としては全然いいのだけれど。けれどデートの時はなんだか寂しいなとも思ってしまう俺も、臨也に負けず劣らず相当に面倒臭い奴だ。


「て…っ、手とか別に、俺は繋げなくても、いいし」
「……素直じゃない時でも喋りたどたどしくなんのな。それは知らなかったわ」
「? 何言ってんのシズちゃん」
「何でもねー」


さて、ホワイトデーはどうしようか。取りあえずはチョコのお礼にと朱色の頬にキスを落としながら、そんな事を考えた。








大遅刻チョコレート
(結論から言うと、臨也のチョコはかなり不味かった)
(勿論、全部喰ったのだけれど)









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気づいたらバレンタイン終わってたので私は大変びっくりしたよ。
誰もチョコくれなかったから気づかなかったですてへぺろ。


(20120221)
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