※シズちゃん名前だけ登場







『生きたければ少年よ、剣を握れ。そしてそれを我らが主君の為に振るうのだ』

それは炎の舞う真っ赤な視界の中で、俺の両親を殺した男に言われた言葉だった。
首筋に宛がわれた鈍色の刀。そこにこびり付く炎とは違った赤色が誰の何なのか(或いは何だった物なのか)は、幼い俺にだって簡単に分かった。

嫌だった。

こんな、刃にこびり付いて煩わしく拭われるだけの存在になるなんて……死にたく、なかった。


『どうする少年。生かされるか、それとも両親の後を追うか』


答えを促す男の声が何度も頭の中で反芻される。煙が肺を燻ってヒリヒリと痛んだ。

――そうだ、俺はただ、死にたくなかっただけ…。







***





「折原」という古くからの名家があったのは今から10年ほど前の話。

折原の13代目当主はその温厚な性格が故に敵の侵入を許し、その結果として妻とその腹にいた子を道連れに彼自身も殺された。そして当時7歳であった小さな跡継ぎは“戦利品”として敵陣へと持ち帰られる事となり、小さな身には余るほどの殺しをさせられる事となる。
主君の裏切り者を殺し、かつて少年に仕えていた者を殺し、自身の感情すらも生きる為に殺した。


「どれだけ殺して功績を上げても、元敵の直系である彼には高い地位も褒美も与えて貰えない」
「それでも、生きる為に?」
「そう、生きる為に。彼は――…俺は、それに必要な全てのものを殺す」


何か言いたそうな眼鏡の友人をよそに、長話は終わりとばかりに青年は話を切り上げた。
元々聞かせて欲しいと持ちかけたのは眼鏡の彼で、時間が許す少しの間という条件付きで青年はそれを受けていた。
そしてあと半刻までに青年は主君の元へと、新たな命を受けに行かなければならなかったのだ。眼鏡の彼もそれは重々承知の上だったが、友人がまた危険な仕事をさせられる事に少なからずの不満があった。


「また君に人殺しの命令かい? 一人の人間にばかり頼るような王様じゃあ、この国も長く持たないかな」
「滅多なことは言うものじゃないよ、新羅。俺はあんたまで殺した人間の数に入れたくない」


命令なら私も殺すのかい? 問えば青年は殺すさと答えた。1秒の迷いすらない言葉を、鋭い瞳と共に投げつける。その顔立ちは多少大人びてはいても、数年前から付き纏う黒い影は拭えていない。
「生」への執着。ただそれだけが青年をここまで成長させたのだから、それは当然と言えた。


「臨也、私は」
「新羅。俺はもう行くよ」
「……そう。僕が何を言っても馬の耳に念仏ってこと……うん、じゃあ、また」
「うん、また」


まるでその言葉を願いに変えるかのように言った臨也は、その足で城へと向かった。

そこは一般の軍事の場であるそれとは違う、政治の場。唯一選ばれた権力者と特例である臨也にしか入ることが許されない、主君の懐元。
足を滑る床はシルクのように滑らかで、小さな家具にも莫大な金が掛かっているのが窺える。
貴族ですら立ち止まるであろうその廊下を、臨也は迷いを見せることなく進んで行きそして一番奥、最も厳重な警備と最も豪華に彩られた襖の前で優雅に跪いた。


「臨也です。我が殿の命を受け賜りに参りました」
「入れ」
「はっ」


恭しく頭を下げた後、臨也はゆっくりと襖を開ける。と、目に入るのは趣味がいいとは到底言えないような掛け軸や陶器。どれだけ高いものであってもそれらの品と室内に充満する香の匂いは、いつ来ても吐き気を催す。
口にする事は無いが王座についてから一貫して誰にも顔を表さない様子も気味の悪いことだった。


「臨也。本日貴様を呼んだのは他でもない。仕事だ」


窺えない顔。頭を垂れたままの臨也には目の前の男の足しか見えなかったが、声の冷たさから無表情であることが容易に分かった。
常任なら震え、声が掠れてしまう程の威圧感の中で臨也は慣れた様に話を進めていく。


「今度は誰を?」
「流石、話が早い。――…平和島静雄という男を知っているか?」


平和島……聞いた事の無い名だと思った。ということは即ち、この周辺の城の人間では無いのだろう。取りあえずは知人を殺すことはないのだという情報に、臨也はほっと胸を撫で下ろした。だからと言って気を緩めることは無く、どころかその瞳にはより強い力が宿る。

知らない奴なら容赦なく殺す。まるでそう言うかのように腰の帯刀がカチャリと音を立てた。


「以前折原の屋敷に仕えていた者の名だ……殺れるな?」
「それが殿のお望みであらせられるのならば」
「よろしい、ならばおって情報を与えよう。それまで待て」
「はっ」


話に区切りが付くといつもどうやって知らせているのか、奴の護衛が入室し帰りを促す。
そんなに警戒しているのならこんな馬鹿でかく目立つ建物など造らなければいいのに、権力者というものはいつもこうだ。こんな所早く離れてしまおうと促されるまま部屋の扉へ向かう臨也を、件の権力者は何を思ったのか初めて引き止めた。

それは、臨也をさらに不快にさせる言葉を吐く為に。


「臨也よ」
「……は、」
「この仕事が終わりし後は、再び我が城へ参れ。今度は夜に、な」


その言葉の意味する所を瞬時に理解した臨也は心底嫌そうな表情と胃の中の物を吐き出したい衝動を殺し、小さく「はい」とだけ返して部屋を後にした。

城を出てその後敷地を出るまで臨也は頭を上げることなく、敷地の外へと出た瞬間に大きく息を吸った。









――――――――――――

この後、シズちゃんを殺しに行く→でもほだされて失敗→殿様に怒られてもう一回チャンスもらう→殺しに行く→でも失敗→シズちゃんと一緒に逃げる

まで考えて萌え尽きて力尽きました。
ちょっと厨二っぽいので書いてて恥ずかしいですしお寿司。

(20120207)
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