!死ネタ注意







 臨也から「すぐに来てほし
 い」との電話があったのは
 、今から15分ほど前のこと
 だった。
 行ってやる義理など、ない
 。臨也から嫌がらせで電話
 がかかってくることなんて
 珍しくなかったし、どれだ
 けアドレスを変えたってそ
 れは変わらないことだった
 から。情報屋と言うのも伊
 達じゃないのだろう。無敵
 で素敵な情報屋さんと公言
 する痛い中二病患者は、そ
 れでもただの中二病者や悪
 者よりもタチが悪いと、誰
 よりも静雄は分かっていた
 。だからこそ、こうして静
 雄は15分間も走り続けてい
 るのだ。池袋から新宿とい
 う、決して短くはない距離
 を。


 (悪者よりもタチの悪ぃあ
 いつが、たかだか来てほし
 いなんていう内容で俺に電
 話するなんて――…ありえ
 ねえ)


 きっとまた何かを企んでい
 るに違いない。だとしたら
 、一刻も早く奴の息の根を
 止めそれを阻止しなくては
 いけない。

 ある種の使命感に駆られな
 がら、静雄は臨也から電話
 のあった路地裏へと駆け込
 みそして――…。




 「やあ、思ったよりも早か
 ったね。さすが化物」




 路地裏へ駆け込んで、そこ
 で瀕死の天敵を見た。

 暗い路地裏に溶け込むよう
 な真っ黒い服に身を包んだ
 そいつは、余裕そうな笑み
 を張り付けながらも額の汗
 は隠せていない。片手には
 乗っかっているだけで握ら
 れていない携帯電話。もう
 片方の手はそいつの腹にそ
 えられて、闇の中で唯一白
 く映える手には真っ赤な鮮
 血が伝っていた。


 「……はっ、今度はそうい
 う嫌がらせかよ。よく出来
 た演技だなァ、臨也くんよ
 ぉ」
 「シズちゃんって馬鹿だろ
 。この状況でそんな…ッぐ
 、げほ……!」


 びちゃり、嫌な音が鼓膜を
 震わす。暗くてよく見えな
 くても、それが何の音かく
 らい分かった。けれど分か
 っても、どうしても納得は
 出来なかった。だってそれ
 はつまり、そういうことで
 、もしかしたら本当に臨也
 は……危ない状態で、……
 死ぬ、かもしれなくて…。


 「――…っ、新羅、呼ぶぞ
 」


 臨也の口元から伝った赤い
 線が、さすがにヤバイと感
 じさせる。すぐに携帯を手
 にとって新羅に電話をしよ
 うと試みれば、その手は弱
 々しく伸ばされた真っ白い
 手に阻まれた。


 「ッおい!手前なにやって
 …、」
 「いいから。多分これもう
 無理だよ。結構深く刺され
 ちゃったし、そのあと捻ら
 れたからね、もう後は死ぬ
 だけってとこかな」


 こんな状況でも笑みを崩さ
 ないそいつに、馬鹿なのは
 どっちだと怒鳴りたくなる
 。ペラペラと動く口は、ま
 るで体の震えを必死になっ
 て隠しているようだった。


 「俺がシズちゃんを呼んだ
 のは、君にお願いがあった
 からさ。死に際の遺言くら
 いは受けとってくれるよね
 」
 「……聞くだけ聞いてやる
 、手短に言え。言ったら新
 羅に電話すっからな」


 言えば、臨也は強情だなぁ
 と笑った。余裕ぶってはい
 るが手は先程よりも赤く染
 まっている。早く言え、馬
 鹿野郎が。


 「シズちゃんにさ、俺を―
 ――…殺してほしいんだ」
 「……に、言ってんだ」

 「俺を殺してよ、シズちゃ
 ん」


 臨也の目は困ったように笑
 いながらも、どこまでも本
 気だった。
 こちらが絶句し何も言えな
 いのをいいことに、奴は続
 けざまに言った。恨みをか
 った覚えは数を忘れる程に
 ある。だから、誰に刺され
 たとかあの時のあいつだと
 かっていう認識は俺にはな
 い。正直、俺を刺した奴が
 男か女かももう忘れたよ。
 でも、誰か分からない奴に
 殺されるくらいならさ、


 「まだ君に殺された方がマ
 シかなって思ったんだ」


 溢れ出る血は、もうほとん
 ど止まっていた。臨也の顔
 は蒼白で、呼吸も浅い。そ
 れが何を意味するのか、分
 かって、それでも……、


 「納得できねぇ」


 納得なんて、出来るわけが
 なかった。


 「ンなに俺に殺されてぇな
 ら、手前が治った後にいく
 らでもブチ殺してやる。俺
 は弱ってるやつを手にかけ
 るような卑怯なことはしね
 んだよ、手前と違ってな」


 一瞬だけの沈黙のあと、臨
 也は盛大に笑って、盛大に
 血を吐いた。今度こそ俺は
 新羅に連絡を入れ、すぐに
 来てくれるよう頼む。新羅
 はすぐに行くとだけ残して
 急ぐように通話を切った。


 「あ、はは……ゲホっ、あ
 ー…もうくるし、…っは、
 ぁ……げほっ、ッ、」
 「新羅に電話した。もう喋
 んな」
 「はっ……、い、のに…馬
 鹿だ、なぁ」
 「喋んなって……!」


 馬鹿はどっちだ、馬鹿野郎
 が。手前なんかさっさとそ
 の怪我治して、俺に殺され
 ちまえ。だから、なぁ、頼
 むから……、頼むから今だ
 けは、


 「……しずちゃ、て…、優
 し、けど、ざんこく…だ」


 どうせなら、きみのせいが
 よかったよ。そう口にして
 、臨也はそっと目を閉じた
 。


 その時漸く、路地裏の入り
 口で、まるで馬の嘶きのよ
 うなバイクのエンジン音が
 響き渡った。









 (20110330)
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