拍手ありがとうございました!
神様臨也3の続きになります。これまでの拍手文はこちらからどうぞ!



臨也が居候として家に来てから、数ヶ月の月日が流れた。
始めは手伝いすらまともに出来なかった臨也だが、今では洗い物や洗濯物の取り込み等、簡単な作業なら出来るようになってくれていた。
 そんな臨也のお気に入りはお風呂のようで、静雄君にこき使われた後に入るお風呂は格別なんだと笑いながら話していたのは記憶に新しい。もしかしたら近い内、風呂掃除を懸命にする臨也を目にかかれるかもしれない。スポンジを握って泡まみれになる臨也を想像して、俺は人知れず笑ってしまった。
そしていつかは一緒にキッチンに並ぶようになって、お互い他愛も無い話をしながら飯を作るのだ。包丁の使い方も教えてやらないとな。
年越しは一緒に迎えて、明けましておめでとうって一番にあいつに言ってやろう。そうしている間に季節は春になって花見も、して……そしてその後は……その、後は…………


「なあ手前。いつまでここにいんだよ」
「なんだい薮から棒に。不安になったの?」
「何だそりゃ。そんなんで聞いたんじゃねぇよ」


ふーんと詰まらなそうに一つ呟いて、風呂上りの臨也はミネラルウォーターを口に含んだ。濡れた髪はぺたりと張り付き、赤みを帯びた肌かは湯気が上がってるかのように錯覚させる。風呂から上がった臨也はどことなく色気を帯びていて俺は苦手だった。


「まだ当分は。あそこはここに比べて全然つまんないからね」
「あそこって……天国、とかか?」
「ああ、君達はそう呼んでるんだね。神様はね、そことは別の、テレビが沢山置かれた空間に居るんだよ」
「テレビ? 駄目だ、手前の言ってること意味わかんねぇ」


神様はね、世界中のニンゲンが映し出される、何千ものテレビの前にいるの。臨也は言った。続けて、すごくつまらないよとも。


「四六時中人間達か俺にお願いするのを聞くんだ。でも俺は何も出来ない。それを人間は見捨てられたと唱え、死んでいく。つまらなかったよ、とってもね」


目の前で助けてと叫ぶ人がいて、自分にはその力があって。でもそれはしてはいけない事だった。その度訪れる感情の波を、こいつはどれだけの数押し留めてきたのだろう。
ひょっとしたら俺と初めて会ったときこいつが指差した女性も、臨也は助けたかったんじゃないだろうか。特定の誰かだけを助けるそれは余りにもルール違反だと、今の自分なら納得することが出来た。
ちょこんと俺の隣に座った臨也からはかぎ慣れたシャンプーの香りがする。今ならこの髪に触れることくらい許されるんじゃないか。そう思った。


「それに比べ、今はとっても楽しいよ。やっぱり君を創ったのは正解だった」
「…………え?」


伸ばした手がぴたりと、空中で止まる。隣で笑う臨也は本当に嬉しそうで、本当に幸せそうで……。
だけどその分、臨也が放った言葉は余りにも残酷だった。


「最初はね、適当にパーツをくっつけて出来上がった人間がどんな一生を過ごすのか観察しようと思ったんだ。途中で人生を挫折するのか、最後まで生きるのか。もし生きるならそいつは何を考えて生きるのか。俺を恨むか、それとも願うか。想像するだけで楽しかったよ」
「なに、を、」
「でも途中で思ったんだ。外見が奇抜なんじゃ、人々は遠巻きにするだけだ。それは面白みに欠ける。なら、外見は普通だけど中身が普通じゃない奴を創ればいいんじゃないかってね」


空中で制止したままの手はそのまま所在無さげに揺れて、無意識にきゅっと握らせた。思考が追いつかず動揺して振るえる俺に気づかぬまま、臨也の舌は休まることを知らない。


「そうやって創ってみた人間が君さ。普通の家庭に生まれた、普通じゃない化物。より普通の家庭と思わせるために弟まで創ったんだ。ただすこし精巧にしすぎたみたい。今は全然普通の人ではないんだけどね」
「じゃあ……じゃあ、手前だってのかよ。俺を、こんな…化物にしたのは。それで、幽まで利用して、手前は楽しんで、」


喉から絞り出した声は驚くほどに掠れていて、潰れていた。頭に流れ込んだ情報が余りにも多すぎてもうショート寸前だ。
初めて幽をこの力で傷つけた時と同じくらいの汗がどっと溢れ出し、体温を下げる。そのくせ心臓は躍起になったように暴れまくって、頭がズキズキと痛んだ。


「そうだよ? 静雄君は俺の想像以上だった! 人間が何人束になってこようとも、君一人の力には及ばない。戦場に行けば君は一躍英雄になることも出来るだろうし、もしかしたらヴァルハラにだって―――……」
「黙れよ」
「……え?」


シャンプーの香りはもうしない。触れたいという気持ちとグチャグチャとした感情も全部、一緒になってふわりと飛んだ。
記憶に焼きついた臨也の表情はひどく笑えるもので、純粋に俺に怯えてる奴の顔だった。
静雄君? と名を呼ぶ声は一転して弱々しく頼りなかった。知るか、そんなこと。


「手前なんかの所為で俺は今までこんな目にあってたってか? これからも手前のくだらねぇお遊びに付き合わされなきゃなんねぇって、そういうことなのかよ」
「ね、ねぇ、何で怒って、るの……? 俺何か、」
「出てけ。今すぐここから」


何で、どうして。叫ぶ臨也なんて無視して、平均男性よりも大分軽いと思われる体を持ち上げる。細っこい体でどれだけ抵抗されようともそんなのは赤子同然だ。手前の与えたこの力がまさか手前の首を絞める日が来るなんて、なんて皮肉な話。

これから先もしかしたら俺は臨也の事が好きになって、一緒に年を越して一緒に花見をして、初めての事を沢山するんじゃないかと思っていた。少しでもそんな未来を夢見たよ。
でもそんな物はもうどこにもない。そんな物はもう。


「もう、要らねぇ」
「なに、静雄くん、しず……」


震える小さな声は薄い扉に阻まれて途絶えた。指先まで凍えるほどの冬の夜、風呂から上がったばかりの火照った体では風邪を引くのは目に見えている。けれどそれのどこが、俺が気を遣ってやらなければならない理由になるだろうか。もう、要らないのだ。


「うぜぇ」


暫く続いた外からの声は、やがて聞こえなくなった。






――――――――――――

拍手ありがとうございました^^!
誤字・脱字等ありましたらお知らせ頂けると幸いです。





(20111229)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -