1月1日。初詣や福袋を目当てとして賑わう人込みの中でも、彼らの日常は変わらない。


「臨也ぁァあぁ!!」


いつも通り臨也を追いかける静雄の手中にはしかし、いつもは無い白い紙切れが握られていた。それは静雄の握力ですっかりくしゃくしゃになってしまって、広げて見ない限りはそれが何であるかを想像させないが、今回静雄が憤怒の形相で臨也を追っている理由はそこにあるだろうと思われた。
 対する臨也はいつもと変わらぬ涼しげな笑みを貼り付けながら静雄との距離を広げようと風を切る。
今は片手が塞がっている分大きな物が投げられない静雄に余裕が生じたのか、臨也は嘲笑と合わせて後ろの追跡者に煽り言葉を投げかけた。


「酷いなぁ。どうせシズちゃん、今年も誰からも年賀状来なかったんだろ? だから俺がわざわざ高校生の休日を数分返上してまで書いてあげたっていうのに。それをシズちゃんったらもう潰してくれてんだもんなー。文字通り、その手で」
「くだらねぇ事ほざいてんじゃねぇぞノミ虫。差出人も住所も不明、『死ね』しか書いてねぇこれの、どこが年賀状だってんだ? あ゛?」
「誰からも来なかったっていうのは否定しないんだね。ははっ、カワイソー」


池袋中に響き渡った静雄の怒声は、空気に乗ってビリビリと臨也の体を震わせた。
心地よく、それでいて不快で仕方が無い声。今年こそ自分が大嫌いなこの化物を殺すことが出来るのか。賭けでもしてる人間がいれば面白いのになぁと、臨也は心中で何とも場違いな事を考えた。


「ほんと、嫌い。シズちゃん」


ぽつりと一粒零した今年最初の愚痴は、灰色のジャングルのようなこの町にじんわりと滲む。それは静雄へと届く前に溶け、空気と馴染んだ。

高校生ならば冬休み真っ只中なこの時期。学校にさえ行かなければ静雄と臨也が出会う事はまずない。臨也が嫌がらせと称して静雄に年賀状を送り付けたのは、その為だった。
送り主不明の年賀ハガキ。それに「死ね」と書かれていれば、静雄はまず真っ先に臨也を思い浮かべるに決まってる。


(そして間違い無く、俺を殴りに来る)


本当に嫌いだよと、臨也はもう一度呟いた。


「俺にこんな事させるシズちゃんなんて、死んじゃえばいいんだ」


それはいつも静雄に向かって言うような憎しみを込めてではなく、ほんの少しの切なさが込められた言葉。
押し寄せたそれを、静雄によってぐしゃぐしゃにされた紙屑と同じように小さく丸めて、臨也はそっと心の片隅に置いた。


「あっははっ、こっちこっち!」
「――っんの、待ちやがれクソ臨也!」


いつか、ぐしゃぐしゃに寄った皺を一つずつ伸ばしながら彼に向き合えばいい。
今はそう納得しながら、臨也は今年一番の静雄との喧嘩を楽しんだ。








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どうせ臨也さんも年賀状貰えてないに決まってる。

今年も一年、よろしくお願いします^^!


(20120105)
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