「さてと、こんなものか」


 自分が身に纏ういつものコ
 ートの、他よりも少し深い
 ポケットに必要な物を詰め
 、臨也は隠しきれない笑み
 を零した。これから起こる
 ことに胸を躍らせながら鏡
 の前でクルリと回れば、少
 しだけ重みを増したポケッ
 トが遠心力で回旋するよう
 に続く。自分の格好に違和
 感が無いことを確認したな
 ら後は出るだけだ。

 大嫌いな天敵―平和島静雄
 を貶めるために――…。







 * * *





 「シズちゃんめーっけ」


 目的の人物は予想通り簡単
 に見つかった。目立つ金髪
 に、同じくらい目を引く長
 身。そいつがバーテン服を
 着ていたらそれは間違いな
 く池袋最強の男、平和島静
 雄である。それは既に池袋
 という街の常識として定着
 しつつあった。
 静雄の方も臨也の池袋侵入
 に気づいているのか、先程
 からキョロキョロと黒いコ
 ートを探す。臨也はその背
 中に準備物・ナイフを躊躇
 うことなく突き刺した。


 「いーざーやぁぁぁ!」
 「あはっ、挨拶じゃないか
 。怒んないでよ」


 ナイフを突き刺されたにも
 関わらずピンピンしている
 静雄は、今までの怒りを拳
 に乗せて振り返りざまに裏
 拳を放つ……が、臨也はこ
 れを難無くかわすとパチン
 、と音を立ててナイフを仕
 舞った。
 臨也の突然の戦意喪失に静
 雄も眉を寄せ訝しむ。彼の
 戸惑ったような表情に、臨
 也は先と同じ笑みを張り付
 けた。


 「今日は殺し合いに来たわ
 けじゃないんだ」
 「あ゛ぁ? 出会い頭に人
 にナイフ突き立てといてか
 ?」
 「だからそれは挨拶だって
 。シズちゃんってそういう
 の根に持つタイプなの?」


 冗談が通じない奴って嫌だ
 よねー、と馬鹿にしたよう
 に臨也は笑う。臨也を殴り
 飛ばしたい衝動をなけなし
 の理性でなんとか抑えると
 、静雄はドスを効かせた声
 で話の続きを促した。する
 と、臨也はさっきまでの不
 遜な態度が嘘のようにフイ
 っと顔を逸らす。


 「……? なんだよ、早く
 言いやがれ。そんで早く俺
 に殴られろ」
 「いやー……うん…あの、
 さ、実は、今日はシズちゃ
 んに……伝えたいことが、
 あって…さ、」


 いつものよく回る饒舌がな
 りを潜め、まるで女子高生
 の告白のように拙く喋る。
 いや、臨也は実際に静雄に
 告白しようとしているのだ
 。エイプリルフールを利用
 して純情であろう静雄の心
 を揺さぶり、そのことを後
 でからかってやる、それが
 臨也の最低にして最高の計
 画だった。
 そんなことなど露知らず、
 静雄は早くも彼の計画に嵌
 まってしまっていた。


 「お、おう。なんだよ」
 「俺……おれ、シズちゃん
 が好き! 今までたくさん
 酷いことしてきたけど、実
 はシズちゃんが……好き、
 だったんだ」


 一日だけでもいい、俺と付
 き合ってくれないかな……
 ? そう言って臨也は恥ず
 かしそうに顔を伏せた。も
 ちろんこれも演技なわけだ
 が、静雄はまんまとこれに
 引っ掛かり困り果ててしま
 う。普段ならふざけるな気
 持ち悪いと一蹴するところ
 だが、臨也の演技力からか
 、なぜだか恥ずかしがる臨
 也を可愛いとすら感じてい
 た。


 「おい、マジな――…っ、
 」


 マジなのか? そう言おう
 と口を開いたとき、タイミ
 ングを見計らったように強
 い風が吹きすさんだ。そん
 な好機を臨也が見逃すわけ
 がない。彼は素早い動作で
 準備物・目薬を取り出すと
 、それを使ってさも目にゴ
 ミが入ってしまったと言わ
 んばかりに涙を流した。


 「あ……っ、痛、」
 「お、おい…! ゴミ入っ
 たのか? 泣くほど痛てぇ
 のかよ」


 過剰に自分を心配する静雄
 に、計画が半分以上達成さ
 れたことを悟る。臨也は緩
 む口元を隠すためにぐしぐ
 しと偽装涙をコートの袖で
 拭った。


 「――…っばかやろ!ンな
 ことしたら余計ひどくなん
 だろが」
 「ふえ……?」


 ――と、ここで臨也の予想
 し得ないことが起こる。な
 んとあの平和島静雄が。臨
 也と犬猿の仲で、今まで散
 々殺し合ってきた天敵が。

 目を擦っていた臨也の腕を
 取り、目元の(偽)涙をぺろ
 りと舐め取ったのだ。


 (ぺろりと舐め取ったのだ
 ……舐め…ぺろりと……シ
 ズちゃんが…舐め……)


 状況に脳が全くついていか
 ない。一種の混乱常態に臨
 也は陥った。フリーズして
 しまった臨也に、静雄は「
 大丈夫か?」と心配そうに
 覗き込んで尋ねる。その顔
 の近さに、臨也の心臓がド
 キリと大きく音を立てた。
 近くで見るとよく分かる綺
 麗な顔にスラリとした長身
 、優しげな表情など、意識
 すればするほど静雄がかっ
 こよく見えてしまう。

 臨也の計画はいつの間にか
 遠く彼方に行ってしまって
 いた。


 「……アリ、ガト…」
 「おう、気をつけろよ。で
 、さっきの話……だけどよ
 、」
 「あっ……それは…やっぱ
 り返事は後でいいっていう
 か、シズちゃんも迷惑だろ
 ?だから――…」

 「俺でよければ、いいぜ」


 臨也の口から言葉にしがた
 い間抜けな声が漏れた。静
 雄の言ったことを理解する
 までに、何度も静雄の言葉
 を脳内で反芻する。


 「ほんと、に……?」
 「ああ。なんか手前が……
 可愛く、見えちまってよ」


 何度も何度も確認した後、
 臨也は勢いよく静雄の胸に
 飛び込んだ。かなりの衝撃
 があったのにも構わず静雄
 はそれを難無く受け止める
 と、力の加減をしながらそ
 っと臨也を抱きしめた。


 「シズちゃん、好き。好き
 だよ」
 「俺も好きだ…臨也」


 それからひとしきり抱き合
 ったあと、静雄はふと思い
 立ったように言った。

 その顔は臨也の肩口に隠れ
 て窺い知れなかった。


 「臨也、」
 「んー? なぁにシズちゃ
 ん」















 「今日って何の日か、知っ
 てるか?」







 ――――――――――――



 臨「( ゚Д゚)!?」

 \シズちゃんマジ外道/



 (20110401)
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