木漏日に埋めた火曜日





 「シーズちゃん」
 「あ?」


 それはまだ俺達が付き合い
 始めて間もない頃の話。俺
 が臨也を恋人として見るよ
 うになった、懐かしく温か
 い記憶。


 「好きだよ」


 思い返せば、好きだと告白
 してきたのは臨也だった。
 高校2年の半ば、そんな中
 途半端な時期に俺達は初め
 て手を繋いだ。


 「……おう」
 「でもね、俺は人間も好き
 なんだ」


 これって浮気だね。当時の
 臨也は笑いながらそう言っ
 た。俺はといえば、人間相
 手に嫉妬する訳にもいかず
 、ただ臨也の言うことに素
 直に耳を傾けていたと思う
 。


 「俺は人間が好きで、だか
 ら最初は人間とは思えない
 くらいの力を持った君のこ
 とを嫌った。でも、君のこ
 とを好きになってしまった
 今、俺はどうすればいいん
 だろう。……俺は分からな
 いんだよ。少し前の自分が
 、どうやって人を愛してい
 たのか」


 ――…ねえ、シズちゃんは
 どうやって俺を愛してるの
 ? 矢継ぎ早に繰り出され
 る台詞の羅列は、その言葉
 でしめられた。その質問は
 ふざけて言ったのか、それ
 とも本気で俺にそう問うた
 のか。今となってはそれも
 分からない。ただその時の
 俺は何も考えず、ただ思っ
 た事を口にしたんだ。知る
 か、と。何も考えず、臨也
 の表情を窺いもせずにそう
 言い放った。


 「ただ、俺は手前が好きだ
 。それだけは分かる。愛だ
 とか愛し方だとか、ンな面
 倒臭ぇこといちいち考えて
 恋愛なんかできるかよ」


 確か俺はそう言った。思え
 ばそこは高校の屋上で、俺
 達二人はよく授業をサボる
 為にここに来ていた。臨也
 はフェンス越しに外を眺め
 、俺はその横で自分の腕を
 枕に眠る。ありふれた風情
 。秋風が金木犀の甘い香り
 を運び、ふわりと頬を撫で
 た。


 「シズちゃんらしい」


 秋風に髪を靡かせながら、
 臨也はポツリと言葉を零す
 。こっそりと薄く瞳を開け
 て窺えば、臨也は相変わら
 ず視線を外にやっていた。
 おそらく体育授業中の“人
 間”でも見ているのだろう
 。俺は再び瞼を下ろした。
 俺が浅い眠りについている
 間も、臨也は考え続けてい
 たのだろうか。


 「…………そうか、愛は知
 ることなんだ。好きだから
 こそ知りたい。知ったから
 好きになる。俺が愛される
 ためには、俺のことを知っ
 てもらわないといけないん
 だ」
 「臨也…?」
 「愛してよシズちゃん。俺
 を。俺のことをもっと知っ
 て、深く、深く、愛してよ
 」
 「……何訳わかんねぇこと
 を」


 打って変わって不穏な空気
 をはらんだ風が吹き抜ける
 。臨也がどんな表情をして
 いたのか、それは調度真上
 に来た太陽のせいでうかが
 い知る事は出来なかった。

 ――――…思えばこの辺り
 から、臨也は既に今回のこ
 とを考えていたのかも知れ
 ない。
 昔眩しかった太陽とは正反
 対に降りしきる冷たい雨の
 中、一人そんなことを思っ
 た。







 ――――――――――――

 随分久しぶりの更新の割に
 全く話しが進んでいないと
 いう……。


 (20111210)
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