――――カチリ。
何をされたのか気づくのにコンマ数秒。自分の耳に、大きすぎる水音が届いたのがそのコンマ数秒後。
信じられない、こいつ……マイクの音源を、入れやがった。


「あ!? あっぁに、して ぇあっあっあ…ッ」
「お、すっげぇ締まった。自分の中の音聞いて興奮したのかよ」


――ぐぷ…ぐぷり、ぐち
耳を通って脳髄までも揺さぶるその音に、もう何も考えられなくなる。ぶわりと急速に白んでいく頭の中を、本能が塗り固めていく。


「あ、あーっ! んぁあ、ひぁ、あッ」
「可愛い、臨也。もっと…もっと乱れろ」


情事中に俺を揺さぶる低音が、吐息と一緒に耳を擽る。僅かに掠れたそれから彼の余裕の無さが伺えて、もう……我慢できなかった。


「ぁっう、しずちゃん…! マイクもうやら……シズちゃんの、これがいいよぉ」


後ろ手にシズちゃんの股間触るとそこはすっかり膨らんでいて俺を更に興奮させた。本当はフェラをしたかったが、この体勢では出来そうも無い。仕方無く性感を刺激するようにぎゅうっと握ると後ろでシズちゃんが息を詰まらせたのが分かった。


「ぁっ、臨也、もう挿れる、ぞ…!」
「ちょうらい、シズちゃ、ァっぁっあひっぁあああッ!!」


こちらの言葉も言い終わらないうちにマイクが抜かれ、すぐに火傷しそうなほどに熱い塊が俺の中を満たしていった。シズちゃんが俺の目の前に先程まで埋まっていたマイクを翳してきて、テラテラと光るそれにさえも体が快楽を拾った。ぎゅうっと締め付けたそこにシズちゃんは気持ちよさそうな吐息を吐いて、言質もなく律動を開始する。さっきまで冷たい無機物でうまっていたそこを、今は憎くも愛しい彼が満たし、乱れた俺の姿に欲情してくれている。彼が抽挿を繰り返す度、揺れてソファに擦れる性器が気持ちいい。ズン、っと突き上げられる度に擦れる前立腺か気持ちいい。
 今では腰だけを突き出すような格好になってしまっていたけれど、それすらも本能に従順な獣を思わせて新たな興奮材となった。入力していた歌もとっくに終わっていて、画面には今人気の歌手が間を埋めるような、どうでもいいVTRが映し出されているのみ。俺たちの部屋は端の方だったはずだが、誰かが通れば一発で事に及んでいるのが露呈するだろう。


「あっあ…、ひんっひッあ!」
「いざや……っはぁ、やべ、」


でも今はそんなことはどうでもよかった。それよりももっともっと気持ちよくして欲しい。もっと名前を呼んで、そして中を満たして欲しい。俺の中で気持ちよくなって、熱い精液を叩きつけられたらどれほど気持ちいいだろう。想像なんてできなかった。だから、もっと。もっと。


「しう、ちゃ、もっ――」




――プルルルrrr…




その時、場を壊すような電子音に双方の動きがピタリと止まった。見ると音の根源は備え付けの電話のようで、その存在を五月蝿いくらいに主張してくる。鬱陶しい、とは思わなかった。逆に、今まではじけ飛んでいた理性が戻ってくる。だってこの電話が鳴るということはつまり……、


「チっ、時間切れだな」


そう、時間切れ。あと10分もしない内に俺たちは身なりを整え部屋を綺麗にしてから退室しなければいけない。あと、10分で…。ぐちゃぐちゃと考えがまとまらない俺を静かに見つめていたシズちゃんは数秒後、突然俺を持ち上げ膝の上に乗せた。所謂背面座位の体勢に持っていかれた俺は当然、短い悲鳴をあげることとなる。そしてこちらのことなどお構い無しなそいつは、そのままあり得ない事を言ってのけたのだ。


「電話、でろよ臨也。一時間延長、カラオケ慣れてる臨也くんなら言えるだろ?」
「ばっ…! できな、ァっ」


電話のコールはまだ続いている。けたたましく、警鐘のように。


「別に俺はいいんだぜ? このままでもよぉ……でも店員は不審がるだろうなぁ、様子だって見に来るかもしんねえ」


ほら、手ぇ届くだろ。取れよ、電話。
まるで悪魔のような囁き。シズちゃんってこんなにサディストだっけ。どこか冷静に頭の中で語りながら、俺は震える手を受話器へと伸ばした。絶対に動くなよとシズちゃんに強く取り付けて。


「………は、ぃ」
『23号室のお客様、そろそろお時間となりますので、ご退室の方お願いいたします』
「あの…っえんちょ、あッ!?」
『…お客様?』


あと少し。あと2、3言で受話器を置くことが出来る。シズちゃんが俺の乳首を摘んだのは、その時だった。最初の方少し触っただけであとは放置してきたそこを、なんで今になって。よりにもよって、今。


(約束が、ちがう…!)


絶対に動くなって、何もするなって言ったのに。
こちらが軽くパニック状態に陥っているっていうのに、シズちゃんは行為をやめるどころか段々と動きを大胆にしていく。ゆるゆると腰を動かし始めたと思ったら既に許容一杯になった後孔の淵に指を引っ掛けた。


「おせんだよ、手前は」
「あふっ…ん、う」
『お客様? 大丈夫ですか? ご気分が優れないようでしたらスタッフを……』
「い、え! それより…ぁ、延長を……んぅ」
『……畏まりました。何時間延長なされますか?』


一時間。これを言えば、終わる。これまでの緊張から開放される安心感から、どっと気が緩んだ。それが今日一番の過ち。シズちゃんに勝負を吹っ掛けた事すらも遥かに凌駕する、過ちだった。迂闊だった。シズちゃんがその隙を見逃すはずなんて無かったのに。
 一時間でお願いします。そう口を開いた俺を、ぞわりとした悪寒と浮遊感が襲った。


「一時間で――――…ぁ? あっうそっやっゃああぁアッ!?」


がっちりと俺の腰をホールドしたシズちゃんは自慢の腕力で俺を持ち上げると、あろうことか律動を再開させやがったのだ。今度は重力も手伝って、熱が容赦なく最深部をつく。
ギリギリでシズちゃんが受話器を置いてくれたからよかった物の、勘のいい店員なら気づいただろう俺の挙動。汗だか涙だか分からない滴が頬を伝った。


「よくできたな臨也。おら、ご褒美、だっ!」
「あ゛っあ゛ぁーッんあ、はッぁあ、ひぅんァ!」
「よお、また来るよなぁ、カラオケ」


絶対に行かない。そう決意すると同時、電話の上に白濁が散った。









――――――――――――

カラオケに行きた過ぎて気づいたら手が勝手に……。
タイトルは勿論私の事です、はい。


(20111126)
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