パンダ編







そこにいたのはパンダくんだった。

床に座っていた私を見下ろしながら、彼はお、と声を上げる。


「いたいた。オマエのだろ、これ」


彼の鋭い爪で摘まれていたのは、私の落としたメモだった。私は慌ててそれを受け取る。
これを拾った彼ならば、このメモがどういう意味を持つか、分かってるはず。


「パンダくんは大丈夫だった?」
「何ともなかったな。内容は何だ?何も書かれていないように見えるが」
「『この紙に触れた人間の本音が聞ける』だよ。すぐに取ったから、効果なかったのかも」
「そうか?さっきまで真希と棘といたが、何も変化はなかった。うーん……もしかしたら、俺が人間じゃないからかもなぁ」


私が書いたのは『触れた人間』、呪骸のパンダくんには効果がないということか。何となく寂しく感じていると、彼ははっはっ、と笑う。


「俺に使いたきゃ、『触れた者』とか『触れたパンダ』にすべきだったな」
「別に、パンダくんに使いたかったわけじゃないよ……」


見た目はもちろんそうだが、改めて人間ではない、ということを突きつけられて、遠い存在のように思えて仕方がなかった。
私の恋心は届かないのだろう。いつまでも平行線、そんな気がしてならない。


「そう落ち込むなって。そんなのがなくても、涼華は分かりやすいなぁ」
「悪かったね。いつも顔に出ると言われるよ」
「そうそう。だからって術式使って他人の本音を引き出そうとするなよ?」
「若気の至りだよ、中学時代に友人と遊んだだけ」
「非術師相手なら尚更ダメだな」
「だから内緒で」
「カルパス一年分な」
「口止め料、ちょっと高いなぁ」


そう笑っていたが、彼には全て見透かされていて。パンダくんはスッと手を広げた。


「オマエが元気になるなら、いつものやってもいいぞ」


何を意味しているのか、理解出来た。
私はパンダくんのふわふわ、サラサラともしている毛並みのある大きな体、胸辺りに抱きつく。
まるで、天日干しした後の温かく、ふわりとした布団のようで心地良い。
でも彼は生きていて、人と同じで、心もある。
掌にあったメモをぐしゃりと握り潰し、黙って彼に身を預けていると、パンダくんはいつも私を投げ飛ばすような手つきではなく、優しく壊れ物を扱うように、私を撫でた。


「涼華は変な奴だなぁ。こんなの意味ないのに」


優しい声が頭上から降り注ぐ。
おかしいな、メモが効かないのに、こうして心が通じ合っている。
それなのに、こんなにも虚しいなんて。

それでも、傍にいられるのなら、それでも私は十分幸せだと。そっと目を瞑った。



















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