冥冥編
そこにいたのは冥さんだった。
こんな所に珍しい、と私は驚きながらも、立ち上がり、パッパと埃を払う。
「こ、こんな所でどうしたんですか?冥さん」
「実は高専に用事があってね。歩いていたらこんな物が落ちてきた」
そう、彼女の手には私が落としたメモが握られており、私は思わず「あっ!」と声を上げると、彼女はくつくつと喉を鳴らす。
「君のだと思っていたよ。実体術でこう言った人心を操るような物を作れるとは、初耳だね」
何故、書かれている内容を知っているんだ、と思っていると、彼女はふと笑いながら教えてくれる。
「太陽光で、多少は見える。本音を聞き出すなど、悪知恵が働くね」
「す、すみませんでした。若気の至りというか……」
「私は怒っているわけではないよ、ただ、これはいいビジネスになると思ってね」
冥さんは私に近づいて来ると、目の前でピラピラとメモを揺らしている。破られているわけでもないし、呪力を感じる。内容を知っているのに、気にしていなさそうに彼女は私の顔を覗き込んだ。
「私と一緒に、ビジネスを始めないかい?君にとっても、良い取引だと思うんだけどね」
そっと頬を撫でられ、私はドキリとして背筋が伸びる。
「えっ、と、すみません。あまり、高専からの任務以外で術式は使ってはいけなくて」
「高専を辞めたっていい。フリーの呪術師となって、二人で」
そっと唇を寄せられ、私はメモを彼女の手から取ると、後退りする。何だかこのまま、彼女の魅力に流されてしまいそうで、少し怖かった。
「ま、まだ未熟者なので、高専にいたいです」
「ふふ、そうか残念だ。君と、その術式に惹かれてしまった。気が変わったらまた声を掛けておくれ」
そう言って彼女は教室から出て行った。
冥さんはお金の為に?きっとそうだろうけど、私を気に入ってもらえたのは嬉しい。
ドキドキと高鳴る胸に手を当て、ふと息を吐く。
あぁ、何もかも支配されてしまいそう。
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