新田 新編





そこにいたのは新だった。

まるで汚い物を持つように、彼は私の探していたメモを摘んでいた。それに私は慌てて立ち上がる。


「新!それ、どこで見つけたの?」
「と、とりあえず返します。あんまこういうの落とさんといてくださいよ、ビビるんで」
「ご、ごめん。いきなり爆発するとか、そんなのはないから大丈夫」
「ならいいんすけど……」


彼は私にそれを預けてくれると、ホッと胸を撫で下ろす。一体、このメモを何だと思ったんだろう。


「メモが降ってきて、あ、先輩のだって掴んだら、加茂さんに爆弾か、地雷かと脅かされて困ったんですよ。結局、何もなかったんで良かったですけど」
「ただ触れた人の本音が聞けるってだけで、害はないよ」
「それも十分怖いんですって!誰宛てのラブレターなんですか?」
「誰のでもないよ。ただ昔作っちゃっただけ」


私の言葉に引っかかったのか、彼はうーん、と唸る。私はメモを破ってしまうと、彼は不思議そうにそれを見る。


「いい答え、貰えへんかったとか?」
「え?」
「だって、先輩は彼氏とかいなさそうに見えますし……」
「……何かそれ失礼」
「え、あ!すんません!二年も三年もそうすけど、色恋とかないなぁと思っとったんです」
「ほー?そういう新はあるってことかな」


私がモテないみたいな言い方。実際、モテはしないけど。でも、他人からそう言われてると、少しムカつく。と、意地悪してしまう。


「す、好きな人くらいはいるんやないですか?俺はいるし……」
「え、本当?教えて」
「無理言わんといてください!」


確かに、呪術高専で浮ついた話はないからなぁ。東堂先輩の高田ちゃんに対する一方的な愛は知ってるけども。


「私は気になってる人くらいはいるかなぁ」
「え!教えてくださいよ」
「やだ」


本人に言えるわけないじゃない、と私は話を切り上げようとする。


「とにかく、メモをありがとう。加茂先輩にも弁解しておかないとな……」


真面目だから、怒りそう。と考えつつ、教室を出ようとすると、新にパッと手を掴まれ、引き止められる。


「気になる程度なら、別にそんな、付き合うとかはないですよね」
「あ、相手によると思うけど……」
「そ、うすか、そうっすよね!じゃあ俺も行きます!」


彼はパッと私の手を放し、教室から出て行った。手を掴まれた瞬間、ドキリとした。まだ、手に残った熱は消えない。
彼の戸惑う様子を見て、まさかと思ってしまうが、私はいや、自惚れるな、とこの気持ちを胸にしまった。



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