五条 悟編
そこにいたのは、五条先生だった。
彼は私の探していたメモを摘んで、ヒラヒラと見せつけるかのように動かしては、ニヤニヤと笑っていた。
「あぁ!そのメモ……」
「悪い子だね、こんな人の心を操るようなことを企むなんてさ。拾ったのが僕だったから良かったけど」
流石は最強、素手で触れているように見えるが、その間には無限があるのだろうか。そう思いながらも、五条先生が何かを口走ったり、説教される前に破ってしまいたい、と「すみません……」と謝り、返してもらおうと手を伸ばすが、彼はおっと、とそれを避ける。
「これ、だーれに使おうとしたのかな?」
「その、私が使おうとしたのではなく、中学生の時に友人に頼まれて……それが今更出てきて、落としてしまい、」
「なーるほどね」
すると彼はそのメモを指でスリスリと撫でる。完全に触れているように見えるそれに、私はそわそわしてしまう。
「何か言わないか心配?それともドキドキしてるのかな」
「か、揶揄わないでください」
何かを期待しているわけではない。どう思われているか聞くのが怖いわけじゃない。ただ、規格外に強い最強の彼に私のお遊びのような術式が通用するのか、と考えてしまう。本当に、何かを期待してるわけじゃないんだから。
「何か期待してるって顔してるよ。ふ、可愛いね」
可愛い、という言葉に私はドキリとした。彼に翻弄されているような、そんな気がしてならない。現に、目元はアイマスクで隠れていても分かる。彼は悪戯っ子のような余裕のある、楽しそうな表情をしている。
「それ、私の術式での本音ですか?それとも、揶揄っただけ?」
すると彼は目の前でぐしゃりと私のメモを握り潰してしまう。その瞬間に、術が解けてしまったのだと分かる。そして、その小さく丸まってしまったメモを差し出してき、私は咄嗟に手を出すと、その上にコロンと落とした」
「どっちだろうね?こんな悪さを思いつく頭で考えてみな」
「私が考えたんじゃな、」
「それを作り出した時点で同罪だよ。んじゃね」
彼はツン、と私の額を人差し指で突くと、そのまま笑顔を貼り付けて去って行った。
あぁ、揶揄われているんだな、と思ったと同時に、可愛いとか言うんだ、と少しモヤモヤした。
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