家入 硝子編









そこにいたのは硝子さんだった。

こんな所に珍しい、とドキリとしたが、ピンセットで私の探していたメモを摘んでいることに気づき、あ!と声を上げる。


「これ、君のだろう」
「そ、そうです。硝子さんが拾ってくれたんですね。ありがとうございます」


私は一方的に恋している硝子さんに拾われたことにドギマギしながらそれを受け取ると、彼女は白衣のポケットに手を入れ、それで?と問う。


「私が触れても何も起こらなかったが、何が書いてあるんだ?」
「……内緒です」


あまり言うことではない、と黙っていると、彼女は口元を緩める。


「ほぅ、これは上に報告しなければならないな。疾しいことに術式を使ったんだろう」
「ち、違うくて、中学時代の友人に頼まれて仕方なく……それが残ってて」


上手く乗せられたような気がする。私はただ必死になって否定すると、彼女は楽しそうに笑った。


「なるほど。それで中身は?興味あるな」
「……このメモに触れた人間の本音が聞ける≠ナす」
「なるほどね。成功した?」
「いや、結局使わなくて」


硝子さんはへぇ、と呟き、何かを考えている。とても綺麗な人で、優しくもあり、淡々と仕事を熟す彼女は好きだけれど、正直、何を考えているのかは分からない。まだ、硝子さんを深くしれていないから、というのもあるかもしれないが、そういった部分も好き。


「君に使いたい相手はいないの?」
「いない、ですね」
「恋したことないんだ」
「ま、まぁ、どうですかね……」


ただの雑談だろうが、恋してる相手が目の前にいるのに、こういった話をするのは、少しドキドキする。


「じゃあ、私が教えてあげようか」


硝子さんはそっと私の耳元に口を寄せると、そう囁いた。ふわりと大人な香水の香りがして、全身に力が入り、胸が高鳴る。そんな私を余所に彼女は言葉を続ける。


「大人な恋も、タバコも酒も、真面目な君が経験したことのないようなこと、知りたくない?」
「っ、」
「忙しくて構ってあげられないことは多いかもしれないけど。気が向いたらおいで」


そっと離れると、恐らくは赤面して、動揺丸出しの顔をしている私の顔を見て、硝子さんは笑う。


「そのメモは本人にも効果があるのかな」
「ない、です……」
「そうか。君は分かりやすくて、素直で可愛いね。また、君の本音も聞かせて」


硝子さんはそっと私の髪を撫でた後、それじゃあね、と軽く手を振って出て行った。
私は暫くその場から動けずにいたが、言葉の全てがフラッシュバックして、その場でのたうち回るように悶えてしまった。

この後、他の二年生に白い目で見られたのは言うまでもない。











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