プロローグ
言葉には力がある。
呪言があるように、紙に書く言葉にも力はある。
私の場合、紙に書いた言葉に呪いが篭り、それを相手に触れさせるだけ。
とある漫画で人物の名前と死因を書くと、本当に死ぬというノートがあるが、私の術式で重要なのはその言葉と文字、それが書かれた紙だ。
もちろん、漫画のように簡単に相手を殺せるわけではない。それを相手に触れさせる、つまり貼り付ける、持たせるなどの行程が必要になるわけで。
更には呪言と同じで、その術式が発動すれば、呪言師よりかは緩いが、体に負担が掛かる挙句、何かしら書く物が必要で、不便ではあるが、サポートにはなる。
そんな私も、呪術高専に入学して一年経った。
非術師の家系である私は、その特殊な術式の全容を知らずに危険な言葉は避けつつも、仲間内で面白半分で遊んでいたこともある。
それがどんなに危険なことか、理解したのは呪術高専に入学してからからだった。
今では遊びに使う物ではない、と重々承知している。中学時代の行為全てが黒歴史である。
二年生になった頃、私は実家に帰っては中学までに使っていなかったノートを回収し、再利用しよう、と高専に持ち帰った。
ある日の授業中、新品同然の一冊のノートを使おうと持って来ていたが、開いた瞬間、目の前にひらりとメモが落ちた。
それは雑に千切られたノートの切れ端だった。
何故こんな物が?何も書かれていないように見えるそれに、私の呪力が篭っているのがおかしいな、と目を凝らしてよく見てみると、窓の外からの光に照らされた紙の表面に薄らと何かが書かれているのが分かった。
しかし、気を逸らしてした私は声を掛けられ、私は慌ててそれをポケットに突っ込んだ。
そんなことを忘れ、私は放課後に寮部屋へと戻る。
何となく実家から持って来たペンケースの中身を見ると、プラスチックの安っぽいデザイン、妙に太めで使い勝手が悪そうなペンがあり、蓋にはボタンが付いている。
押してみると、丸い透明な球体の先端から青い光が放射された。ブラックライトだ。
どうやらこのペンは不可視インク入りのペンで、ブラックライトを当てると文字が浮かび上がるというもの。
そういえば、小学生の頃に流行ったような。
そこで私はやっと思い出した。
中学生の頃に、私の術式を知った友人とこのペンを使って遊んでいたことを。
そう、あのメモに書かれていたのは……
『この紙に触れた人間の本音が聞ける』
若気の至りでやってしまった行動だった。まだあのメモが残っていたなんて。
私はその呪力の篭ったノートの切れ端を更に破り、無効化させようとポケットに手を入れる。
しかし、ポケットに入れたはずの紙はなく、冷や汗をかく。
もし誰かがあの紙を拾ってしまったなら。
そのまま捨ててくれればいいが、呪力の篭っている物だ、気づく人間も多いはず。
紙に呪力を込める術師など、思いつくのは私だろう。
拾って、親切に届けてくれるのかもしれないし、何の効果か分からない物だ、大事になるかもしれない。
とにかく、人目につくのは避けたい、と私は慌てて寮を飛び出し、今日移動した場所を徹底的に探し回った。
「ない、ここにも……」
最後に辿り着いた教室で、机の下などを確認するが、見当たらない。
誰かが拾ってしまったのかもしれない。誰かが名乗り出てくれるのを待つしかないか、誰かに相談するか、諦めかけていた時、教室の扉が開いた。
そこにいたのはーー
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