禪院 真依編
そこにいたのは真依だった。
彼女は床に座り込む私を見て、呆れたように深くため息を吐いた。こんな姿を見られて恥ずかしい、と慌てて立ち上がる。
「何やってるのよ。埃まみれになって」
「こ、これはその……」
「これ、アンタのでしょ」
そう言ってポケットから取り出したのは、私が探していたメモだった。私は服の埃を払うと、それを受け取った。無事に戻ってきてよかった。
「それじゃあね」
さっさと帰ろうとする真依に、私は何か不機嫌だと察して、何かあったのだろうか、と彼女を追っていく。
「待って、大丈夫?何もなかった?」
「大したこと、書いてなかったじゃない」
何故、内容を知っているんだろう、と私が驚いていると、彼女はメモを掲げるような仕草をする。
「そのインク、光に当てると少し見えるのよ。本音が聞ける、なんてね。アンタにしては悪知恵が働くのね」
「ご、ごめん、色々と理由があって……」
私は見られていたなんて、と恥ずかしく思っていると、彼女は「まぁ、いいわ」と遅れ気味の私の手を握った。
「隠してる人の心を見てしまう前にメモを見つけてあげたんだから、これから買い物に付き合いなさい」
「……幻滅しないんだ」
「別に……誰だって知りたいわ。私だって、」
真依は何かを思うように、ギュッと私の手を強く握り直す。そんな彼女の頬は紅潮していてる。いつも強気な彼女でも、そういったことを思うんだ、と私は彼女の手を指で撫でる。
「メモがなくても、分かることがあるよ」
「……分かってるならちゃんと付き合いなさい」
真依は素直じゃないだけで、分かりやすい。何だか可愛らしいな、と私は真依に寄り添って歩くと、彼女は近い、と肘で押し退けるが、「いいでしょ」と無理に腕にしがみつくと、彼女はもう、と満更でもなさそうに少し笑った。
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