禪院 真希編







そこにいたのは真希だった。

彼女は私を見下げれば、私の探していたメモを差し出してきた。


「どうせ、これ探してたんだろ。何の罠だ?」


まさか真希が直接渡しに来てくれるだなんて思っていなかった。私はそれを受け取ると、彼女は肩を竦める。


「罠というわけではないよ」
「パンダが怖いからって私に持って来させたんだ。罠だろ」
「違うってば。危険な物じゃない。だから触れていられるでしょ?」


私はそれを破ると、「ま、オマエに限ってそれはないか」と彼女は呟き、私は信用されてることに嬉しく思っていた。


「で?何が書いてたんだよ」
「あー……大したことでは」
「そんな埃まみれになりながら探してたんだ。何か裏があんだろ」


彼女は私の弱みでも握ろうとしているのか。問い詰めてくる。拾ってくれた恩もあるし、答えなければいけないか、と私はそのメモの内容を話す。


「この紙に触れた人間の本音が聞ける」
「本音?自白に使うもんか」
「んー……そうだけど、そうじゃないというか……」
「好きな奴か」
「そんなとこ」


私の答えに、彼女は不満だったのか、眉を顰め、ふと息を吐く。


「よく分かんねーけど、そんなの使って本音聞き出せてもな、と私は思うけど」
「勇気がなかったら、使うんじゃない?……というか、真希と恋バナって何か変な感じ」


そう私が笑えば、真希はまた不満気な表情をした後、私に背を向け、「私を何だと思ってんだよ」と呟いては教室から出て行く。それに私は後を追った。


「で?誰に試そうとした?棘か、憂太か……はっ、パンダとか?」
「ふふ、パンダだっていい男だよ?パンダだけど」
「ハズレか。じゃあ私か?」


揶揄うように笑いながら話す真希に、私は珍しい会話で楽しくなって、こちらも揶揄ってやろう、と口元を緩ませながら返事をする。


「そうだって言ったら?」


その言葉に彼女は私の顔を見ると、ふと優しい笑みを浮かべる。


「私だったら、あんなもんなくても、何でも答えてやるけどな」
「本当?じゃあ、好きな人は?」


パンダ達が揶揄っていたから、やはり憂太だろうか、と私はドキドキしながら返事を待つ。しかし、返ってきたのは、言葉ではない。
彼女は足を止めると、私も自然と足を止めて、真希を見る。すると彼女は息が掛かるほど近くにおり、気づいた時には優しく唇が触れ合っていた。私はただ今の行為は事故ではなく故意であり、その意味を考えては思考が追いつかずにぐるぐるとして、ポカンと口を開いていた。
真希は揶揄ったのだろうか、そう結論づいたが、彼女は頬を紅潮させては、私から目線を逸らした。


「くそ……っ、何とか言えよ」


その瞬間、私はトクントクンと自身の鼓動が真希にも伝わってしまうほど煩く高鳴った。そして、次の瞬間には、私も彼女の唇にキスを返した。それに真希も驚いていて、唇が離れると、「あぁぁ、もう!」と吼え、頭を掻くと、廊下をずんずんと歩いていく。

あぁ、自覚してしまった。

私はそんな真希を追って、そっと手を取ると、キュッと握り返してくれた。
もっと、もっと早くに気づいてればよかった。そう、逞しくも優しい手の温もりを感じながら、幸せで胸がいっぱいになっていた。



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