乙骨 憂太編
そこにいたのは憂太だった。
彼は私が床に座り込んでいる姿を見ては首を傾げる。
憂太に恥ずかしい所を見られてしまった、と私は埃を払って、立ち上がった。
「何してたの?」
「えーと、探し物。ノートの切れ端なんだけど……」
「探すの手伝うよ」
「いいの?」
「僕も暇してた所だし、君さえよければ」
「ありがとう、助かる。あ、でも触らないでね、危ないから」
「分かった。じゃあ行こう」
そう、私達はそこから出て、校舎を歩きながら、辺りを見回す。
私は何となくメモが近くにあるような気がしてならなかった。
「そこまで強い物ではないから、呪力も曖昧で。近くにあるような、ないような。ぼんやりしてる。何か今はそういう感覚だから、探すのが難しくて」
「そうなんだ。そんなにそのメモって大事?」
「ま、まぁ……」
「それ、誰に使おうとしたの?」
「それは、」
すぐにおかしいと感じた。
私の術式は誰かに使う物じゃない。私はよくメモを爆弾代わりにする。地雷だとか、紙飛行機で飛ばして、呪霊に当たると爆発する物とか。
そんなことでしか使っていないのに、憂太は少しも不安がっていなければ、まるで中身を知っているかのような言葉に、私は言葉を詰まらせて、隣を歩く彼を見る。
「メモに何が書いてあるか、知ってるの?」
「あっ」
しまった、というような声を上げると、彼は私が探していたメモを申し訳なさそうにポケットから取り出した。
「実はもう見つけてて……君といる口実が欲しかったんだ。
その言葉に思わず胸がドキリとする。何と返答していいのか、分からない。
しかし、そのメモを受け取ろうとメモの端を引っ張るが、それはピンと張り、彼は簡単にメモを放そうとはしなかった。
「その……僕の本音は、聞かなくていいのかな」
私はメモを引く手を緩め、息を呑んだ。
彼はそれに気づいたようで、言葉を続ける。
「勇気が出なくて。力を借りれるのは今だけだから……聞いて?」
それは狡いと思う。
ほとんど私に投げているじゃないか。でも、それでも聞いてみたかった。
「わ、私のこと、どう、思ってる?」
勇気のいる言葉だった。
でも、こうやって聞いてくるということは、きっと、きっと嬉しい返事を貰えると期待していた。
「好きだよ」
思った通りの言葉。
それでも私の鼓動はドクドクと速まった。未だに彼の手にあるメモを、私はくしゃりと握りしめた。
「私も、同じ気持ち……」
これが私には精一杯だった。
それに真剣な眼差しを向けていた彼が、安心しきったように、へらりと笑ったのだった。
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