#2.猿の事情などどうでもいい。
過呪怨霊に憑かれた猿がやって来た。
彼女は酷く怯えていて、毎晩、同じ人間の夢を見るらしい。
内容はただその人の生活を覗き見しているようなもの。悪夢でもないようだが、しかしそこまで怯えるということは、その過呪怨霊は彼女の知り合いか何かなのだろう。
まぁ、猿の事情などどうでもいい。
弱いが、呪霊の数は必要だ。
あぁ、不味いなんてものじゃない。
吸収して呑み込む。
いつもそれの繰り返し。
仮眠を取ろうと、部屋で一人、目を閉じた。
浅い眠りについた私は夢を見る。
今日やって来た女の言っていた通り、見知らぬ女の日常といった夢。
朝起きて、仕事に向かって、ランチして。
晩酌して、風呂に入ってゲームして……そして寝た。
夢の中で私の意識はある。何だこの夢は、とただ不快だった。
呪霊が身体に影響を及ぼすなんてこと、なかったはずなのに。
これはどういった目的で見せられているのか、眠っている彼女を俯瞰して見ていると、ふと一瞬の浮遊感を感じ、夢の中で私は彼女ベッドに落ちた。
彼女はパニックになりながらベッドから落ちる。
正直、私も何が起こったのか理解出来ていない。
瞬間移動した?彼女は現実に存在するのか。過呪怨霊になって、憑いていた本人でないことは分かった。
これは後々考えよう、今はここから何事もなく出たい。
そう思っていたのに、彼女は私を知っていた。
猿のくせに、私の存在も、呪霊のことも。
フィクションというのは理解出来ないが、それはどうでもいい。
しかし、彼女の言うことが本当ならば、猿しかいない世界はただただ、虫唾が走る。
「あの、夏油さん」
車を走らせていた彼女が声をかけて来た。
彼女は怯えながらもどこか好意的だ。
一体その本には私の何が書かれていたのか。
「ここ……私の実家だった場所です」
あんなに弱い呪霊の気配は私達を誘うようにそこへ向かっていた。
彼女と何の関係があるのか。
気配を辿って来たものの、呪霊はそこにいない。
「ここに来ているが、また逃げてしまったようだね。進んで」
「はい……でも一旦、ガソリンスタンドに寄りますね」
会って数時間しか経っていないが、もう使いパシリされることに慣れている。
私にとっては都合が良いが。
ガソリンスタンドへ向かうと、彼女はそうだ、と話す。
「休憩、必要ないですか?トイレとか、自販機もありますよ」
「……トイレだけは行っておこう。外の空気も吸いたい」
そう、私は車から降りてトイレ休憩をする。
本当に別の世界だというのならば、ヨモツヘグイの類があってもおかしくはない。
無闇に何かを口に入れることは出来ない。
時間も時間の為、人通りが多くなって来る。
車内からも見ていたが、私が探している呪霊以外に他の呪霊の気配が感じられない。
蠅頭くらいは見かけるものだが。
彼女は給油を終えたようで、車を移動させ、珈琲を買っていた。
車で帰ってくると、お待たせしました、と彼女は運転席に座り、珈琲を飲んだ。
「次はどこですか?」
「東」
「分かりました」
再び車を走らせる。私は指示をするだけ。
呪霊の目的が分からない。
過呪怨霊のくせに、自由に動き回るとは。
私はそのまま眠ってしまっていた。
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